国立感染症研究所 感染症情報センター
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2011年

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岡山市における手足口病の症状とコクサッキーウイルスA6型の検出
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東南アジアから輸入された風疹の症例(25歳、男性)
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欧州からの輸入と考えられた麻疹症例
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塩釜〜多賀城地区における震災後の成人呼吸器感染症発症状況(2011年4月7日)
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東北地方太平洋沖地震後の仙台市とその周辺でのインフルエンザウイルス検出状況



投稿(速報):岡山市における手足口病の症状とコクサッキーウイルスA6型の検出

[2011年第26週(2011年6月27日〜7月3日)]


 岡山市では手足口病の流行が全国に先駆けて起こっており、市内の定点医療機関からの患者報告数は2011年第13週から増加し続け、第24週には過去10年で最多の報告数となった。第26週では更に増加し、定点当たり報告数は13.6となった。年齢分布は1歳以下が半数で流行拡大によっても大きく変わらないが、乳児の割合が増加してきている。岡山市保健所は、第25週(6月23日)に発症した2例の手足口病患者からの咽頭拭い液を病原体定点医療機関において採取し、ウイルス検索を実施した結果、2検体ともコクサッキーウイルスA6型(CA6)が検出された。

 1例目は9カ月女児で、6月23日に39.2度の発熱をきたしたが翌25日には解熱し、同日の夜から上下肢、臀部、首、軟口蓋に発疹・水疱が出現した。患児からの検体は27日に採取した。2例目は4歳1カ月男児で、23日に38.5度の発熱をきたし、25日に解熱。同日の夜から手掌、足底に発疹・水疱が出現した。患児からの検体は27日に採取した。当該診療所では、これまでみられていた典型的な手足口病発症例とは多少異なり、1例目のように高熱が先行し、上腕、臀部、首回りの発疹が、従来の好発部位であった手掌、足底よりも目立つ等の臨床的特長を有する例を多く経験している。さらに手掌、足底に発疹がない例や、水疱が大きく水痘との鑑別を要する例もある。なお、熱性けいれんを起こす例はあるものの、現在のところ全例順調に軽快している。また、地域の重症小児感染症患者の診療を担う国立病院機構岡山医療センター小児科にも重症例の紹介はないとのことである。

 岡山県環境保健センターにおいて、上記咽頭拭い液から直接抽出したRNAを用い、エンテロウイルスのVP4−VP2遺伝子の一部を増幅する逆転写PCRを行った。得られたPCR産物の塩基配列をGenBankデータベースに登録された配列と比較したところ、2件とも2009年に中国で検出されたCA6(Acc.No.HQ005435)の塩基配列と最も高い相同性(97%)を示した。国内CA6株では、2005年に兵庫県で検出された株(Acc.No.AB282805)との相同性が92%と最も高かった。

ニコニコこどもクリニック小野博通
岡山県環境保健センター濱野雅子
岡山市保健所 中瀬克己



投稿(速報):東南アジアから輸入された風疹の症例(25歳、男性)

[2011年第20週(2011年5月16〜22日)]


【主訴】
皮疹

【現病歴】
2011年1月22日〜3月22日まで東南アジア(インドネシア、シンガポール、マレーシア、タイ、ラオス、ベトナム、カンボジア)を旅行した。3月18日に悪寒、40℃台の発熱、頭痛、咽頭痛が出現し、3月21日から皮疹が全身に広がった。皮疹が持続するため帰国後の3月23日に当科を受診した。

【身体所見】
体温37.3℃, 眼球結膜の充血(+), 咽頭発赤(+), 扁桃腫脹(+), 両側扁桃および口蓋垂にアフタ性潰瘍(+), 両側頸部リンパ節腫脹(+), 耳介後リンパ節腫脹(-), 胸背部および四肢に紅斑(+)出血斑(+), 呼吸音清, 心雑音(-), 腹部平坦・軟、腸音正常, 肝脾腫(-), 関節腫脹(-)

【血液検査(3月23日)】
WBC 2380/μ(l Lymphocyte 833/μl), Hct 42.1%, Plt 13.7万/μl, ALT 17 U/L, LDH 339 U/L,CRP 3.61 mg/dl

デングウイルス遺伝子陰性、デングウイルスNS-1抗原陰性、デングウイルスIgM抗体判定保留、デングウイルスIgG抗体陽性

【経過】
3月23日以降、38℃を超える発熱はなく、体幹の皮疹は3月30日には消失し4月6日には四肢の皮疹も消失した。頸部リンパ節腫脹は遷延したが4月8日には消失した。合併症はなかった。3月25日の血液検査で風疹特異的IgM抗体が上昇しており風疹と診断し、保健所に発生届を提出した。なお3月25日の咽頭ぬぐい液についてRT-PCR法で風疹、麻疹、ヒューマンメタニューモ、RS(A型、B型)、パラインフルエンザ(1型、2型、3型)、インフルエンザ(A型pdm2009、A型ソ連、A型香港、B型)、アデノ、ボカ、ライノ、エンテロウイルス遺伝子の検出を試みたが検出されなかった。また3月30日の尿からも風疹ウイルスは検出されなかった。患者には風疹ワクチンの接種歴はなかった。

【考察】
成人の風疹では、皮疹が出現する1〜5日前にウイルス血症による発熱と全身倦怠感が出現することが知られており、血液検査では白血球と血小板が減少する。このため咳嗽が目立たないことを除けば麻疹の経過とよく似る場合がある。本症例でも皮疹が出現する前に3日間、発熱、頭痛、咽頭痛がみられたが麻疹PA抗体価は急性期回復期ともに健康成人の平均抗体価であり、麻疹は否定的であった。また東南アジアへの渡航歴があり、皮疹の一部は点状出血でデング熱との鑑別を要した。デングウイルスの遺伝子、NS-1抗原、IgM抗体はいずれも陰性でデング熱は否定的であった(デングウイルスIgG抗体陽性は日本脳炎抗体の交差反応または過去のデングウイルス感染によるものと考えられた)。

1977年から中学生女子を対象に始められた風疹の定期予防接種は国内での流行を抑えることができず、1995年から生後12〜90カ月のすべての男女と中学生男女に対象が拡大された。2003年9月までは経過措置として1979年4月2日〜1987年10月1日生まれの男女を対象に接種が行われたものの、2010年度感染症流行予測調査では30〜54歳男性の10〜30%が本症例のように風疹に免疫を持たないと報告されている(
http://idsc.nih.go.jp/yosoku/Rubella/Serum-R2010.html)。

本症例は病歴より東南アジアからの輸入と考えられた。本年は欧州での流行拡大に伴う麻疹の輸入が注目されているが症状の似ている風疹にも注意が必要である。



【参考文献】
J E Banatvala, D W G Brown. Rubella. Lancet 2004; 363: 1127-1137

【謝辞】
本症例に関してご指導、ご協力いただいた国立感染症研究所ウイルス第一部第2室 高崎智彦先生、感染症情報センター佐藤弘先生、多屋馨子先生、藤本嗣人先生に深く感謝いたします。

(独)国立国際医療研究センター国際疾病センター
山内悠子、加藤康幸、氏家無限、竹下 望、金川修造



投稿(速報):欧州からの輸入と考えられた麻疹症例

[2011年第14週(2011年4月4〜10日)]


症例 30代 男性

【主訴】
発熱、咽頭痛、咳嗽、全身の発疹

【現病歴】
生来健康。2011年3月下旬にフランス国内のスキー場へ行った際に発熱、発疹を呈する小児と接触した。3月30日、震災関連の取材のため、単身来日した。4月4日より悪寒、発熱、咽頭痛、咳嗽が出現し、都内滞在先の近医を受診した。抗菌薬などの処方を受けたが、症状は改善しなかった。4月6日、頭部から全身に拡がる発疹が出現した。4月7日、再度同医を受診したところ、麻疹が疑われ、当科に紹介、入院となった。

【予防接種歴】
家庭の方針で麻疹含有ワクチンを含めて接種を受けていない。

【入院時現症】
意識清明、血圧110/60mmHg、心拍数90回/分、体温37.5℃(解熱薬内服後)、SpO2=95%(室内気)、頻呼吸なし
結膜充血あり、頬粘膜にKoplik斑あり、咽頭発赤あり、全身に癒合傾向のある紅斑性小丘疹あり、呼吸音清

【検査所見(入院時)】
白血球2960/μl,赤血球488万/μl,血小板11.1万/μl,AST 37 IU/l,ALT 26 IU/l,LDH 289IU/(l 基準値119-229 IU/l),CRP 4.88 mg/dl,麻疹特異的IgM抗体12.87(カットオフ値0.8),麻疹特異的IgG抗体4.8(カットオフ値2.0)
咽頭ぬぐい液(4月8日採取)麻疹ウイルス遺伝子型D4陽性(RT-PCR)
胸部X線:明らかな異常陰影を認めず

【入院後経過】
4月8日、保健所に麻疹発生届(臨床診断)を提出した。さらに、当日保健所から来院した医師・保健師に麻疹ウイルス遺伝子検査のための検体を提出した。同医師・保健師らにより本人同意の下、発症前後の詳細な行動や接触者について聴き取り調査も合わせて行われた。入院3日目には解熱し、Koplik斑は消失、発疹は色素沈着の傾向を示した。その後、合併症の兆候を認めなかったため、入院5日目に退院とした。

【考察】
 本症例は、発症前10日前後にフランスで同症状者との接触歴があることや分離された麻疹ウイルスの遺伝子型が欧州で多いD4であることから、同地域からの輸入と考えられた。D4型麻疹ウイルスによる麻疹の発生については、2011年に入り、わが国でこれまで3件の報告がある。これらはいずれも欧州での曝露が疑われている(IDWR13:6-7,2011:
http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2011/idwr2011-13.pdf)。日本での麻疹の予防接種率増加に伴い、国内での麻疹発生の抑制は期待されるが、逆に輸入感染症として対応する機会が増加することが予想される。実際、2011年1〜2月には広島県内において、海外からの輸入麻疹およびそれに引き続く関連患者の発生が報告されている(IASR速報4/5掲載:http://idsc.nih.go.jp/iasr/measles.html)。
 2012年の麻疹排除という目標に向けて、昨年11月から麻疹症例について、確定診断のためにウイルスの遺伝子検査(血液・尿・咽頭ぬぐい液)が積極的に行われるようになった(
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou21/tsuuchi_101111_01.html)。医療機関にはこれまで以上に、速やかな届出と保健所との緊密な連携が求められている。麻疹輸入例の相対的な増加を認識し、渡航歴があり、発熱、咳嗽、発疹のある患者では麻疹も疑う必要がある。
 本症例における行動調査では、来日後被災地の避難所には行っていなかった。感染性があると考えられる期間には、短時間茨城県に滞在したほか、都内にいたことがわかっている。なお、移動には公共交通機関を利用していた。自然災害後に感染症が流行するリスクは一般に低いと考えられるが、今後も被災地への麻疹等の持ち込みには注意が必要と考える。しかし、麻疹の輸入は今後も避けられない面があり、医療施設内や地域での伝播を防ぐには、予防接種率を高めておく必要がある。


参考文献
Floret N, et al. Negligible risk for epidemics after geophysical disasters. Emerg Infect Dis 2006; 12:543-548.

(独)国立国際医療研究センター国際疾病センター
新藤琢磨、加藤康幸、山元 佳、氏家無限、竹下 望、金川修造



投稿(速報):塩釜〜多賀城地区における震災後の成人呼吸器感染症発症状況(2011年4月7日)

[2011年第13週(2011年3月28〜4月3日)]


 塩釜〜多賀城地区は宮城県の沿岸に位置しており今回の震災に伴って大きな被害をうけたが、当院の細菌検査室は地下に設置されていたため被害が比較的軽微にとどまり、急性期から細菌検査機能は維持できている。いくつかの周辺医療機関は機能が大きく低下したことから当院にも多数の患者が集中し、被災数日後から呼吸器感染症患者も急増している。市中肺炎を中心としたこれらの症例に関する細菌学的検査の結果をみると、いくつかの点で平常時とはかなり違うパターンを示していることが判明したため被災後3週間までの暫定的な情報を提示する。

 この3週間に喀痰検査を施行した喀痰検体においては、肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラキセラの3菌種が平常時と比較して異常に高率に分離されており、とくにインフルエンザ菌およびモラキセラの分離件数が極端に増加しているのが特徴的である。3/12〜4/1の3週間における3菌種の分離状況を2007年以降の5年間で比較した成績を表1に提示する。なお検討対象が喀痰であるため菌株ほぼ全例が成人例から分離されたものとなっている。

 この期間に当院を受診した市中肺炎症例のなかで喀痰培養を施行できた70例に関してみると、肺炎球菌17株、インフルエンザ菌26株、モラキセラ24株が分離されている。ほとんどの菌は不適切痰以外から2+以上で分離されており、またグラム染色でも好中球の貪食像が確認されていることから単なる保菌ではなくて起炎菌である可能性が高いものと考えられる。また70症例中のその他の推定起炎病原体としては、インフルエンザウイルス3件、クレブシエラ1件、大腸菌1件、結核1件が確認されている。

 これらの3菌種に関する抗菌薬感受性を当院の平常時の菌株と比較すると(表2〜4)、まず肺炎球菌に関してはペニシリン感受性株が明らかに増加しており、マクロライドやテトラサイクリン感受性も明らかに改善している。インフルエンザ菌もペニシリン感受性は改善しており、とくにこの間βラクタマーゼ産生株は1株も分離されていない。一方では大幅に分離率が増加しているモラキセラに関しては抗菌薬感受性の明らかな変動は認められていない。なおこれらの菌株の抗菌薬感受性はディスク法によりCLSIの基準に基づいて判定を行っている。

 患者背景をみると当院の本来の診療圏である塩釜市、多賀城市、利府町、松島町、七ヶ浜町および仙台市の一部からの症例が被災後も大多数を占めており、また被災後の生活スタイルとしては避難所由来の患者が半数程度、自宅由来の患者が半数程度となっている。正確な分析は現時点では困難だが、患者の年齢幅は28〜98歳(平均74.6歳)であり、患者の年齢構成や基礎疾患保有状況に関しては平常時と比較して大きな変動は認められていない。特定の地域や避難所に偏った分布は示していないことから今回の現象は少なくとも限局的なアウトブレイクというよりはある程度の普遍性をもった現象であるものと推測される。4月7日現在では依然としてほぼ同様の状況が継続しており、明らかな収束傾向は認められていない。



宮城厚生協会 坂総合病院
 呼吸器科  高橋 洋、生方 智、佐藤栄三郎、庄司 淳
 細菌検査室 歌川睦子



投稿(速報):東北地方太平洋沖地震後の仙台市とその周辺でのインフルエンザウイルス検出状況

[2011年第10週(2011年3月7〜13日)]


 東北地方太平洋沖地震の被災地ではなお多くの被災者が衛生状態の万全ではない避難所での生活を余儀なくされており、感染症の流行が危惧されている。特にインフルエンザはすでに避難所での感染も確認されており、今後さらに流行が広がる恐れもある。今回我々は震災後に、インフルエンザウイルスを仙台市とその周辺で検出したので報告する。

 検体は仙台市およびその周辺から採取された59件の咽頭もしくは鼻咽頭ぬぐい液、およびインフルエンザ迅速診断キット残液である。A型インフルエンザ(H3N2およびH1N1pdm)の検出および判別はConventional RT-PCRを行った。採取された検体を適切な輸送培地中で輸送できた検体は少なくそのために検出感度は高くなかった。しかし、合計で21件の検体がPCRで陽性となった。その内訳はH3N2が19件、H1N1pdmが2件であった。このうち避難所に関連する陽性例としては、仙台市若林区で被災者のサポートをしていたスタッフ(H3N2)、同若林区の避難所の被災者(H3N2)、石巻市の避難所の被災者(H3N2)、岩沼市の避難所の被災者(H1N1pdm)が陽性であった(表1)。また仙台市急患センターでの迅速診断の結果を表2に示す。震災後の3月12日から3月21日までの10日間に仙台市急患センターを受診した成人および小児の1,180例中、335例(28.3%)にインフルエンザウイルスの迅速診断が行われ、うち107例(31.9%)がA型インフルエンザ陽性、5例(1.5%)がB型インフルエンザ陽性であった。
 仙台市および宮城県においてはインフルエンザの流行は、2010年12月に始まり2011年1月下旬にいったんピークを迎えていた。この流行の主体はH1N1pdmであったが、流行が終息傾向に向かっていた2月中旬以降再度増加傾向が見られていた。仙台市衛生研究所のデータでは2011年8週時点ではH3N2が最も多くH1N1pdmとB型が一部に見られるという状態であった1)。このことより、2月下旬以降の再流行の主体はH3N2であったと考えられる。つまりH3N2を中心としたインフルエンザの再流行が見られている段階で3月11日の震災が起きたということになる。震災のために通常のサーベイランスが行われておらず、検査体制も不十分であることから現在の被災地域でのインフルエンザの全体像を把握することは困難であるが、震災後も仙台市やその周辺ではインフルエンザの流行が継続して起きていることが確認された。

 被災地の避難所では多くの人が狭い空間で暮らしており、手洗いなども十分にできないので、インフルエンザの流行が起きやすい環境である。特に、H3N2は高齢者を中心に重症化する例が多くみられるウイルスであり、今後、避難所を中心として厳重な警戒が必要である。

1)仙台市衛生研究所:仙台市インフルエンザ・感染性胃腸炎等流行情報(第16号)
http://www.city.sendai.jp/shoku/__icsFiles/afieldfile/2011/03/11/ryuukou.pdf


東北大学大学院医学系研究科微生物学分野
 鈴木 陽、岡本道子、当广謙太郎、神垣太郎、押谷 仁
仙台市救急医療事業団
 中川 洋



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