国立感染症研究所 感染症情報センター
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2010年

南アフリカ旅行での感染症予防



Q1:南アフリカへ、サッカーFIFAワールドカップ(以下ワールドカップ)を観戦しに行きます。南アフリカでは、様々な感染症が流行している、とも耳にしますが、どのようなことに気をつけたら良いでしょうか?

[2010年第22週(5月31〜6月6日)]


●南アフリカ旅行での感染症予防

 旅行者が、旅行先で何らかの感染症にかかってしまうリスクは、その旅行先、旅行期間、旅行の内容によって異なってきます。例えば、南アフリカで2週間以上滞在し、サッカー観戦の合間に、内陸方面への滞在やサファリパークへの訪問を予定している旅行者と、現地には滞在せず、機中泊のみでサッカー観戦だけをしてくる旅行者とでは、感染症のリスクは全く同じではありません。

 ここでは、比較的短期(2週間未満)の旅行期間で、サッカー会場周辺を訪れる旅行者を想定し、注意点をお答えします。なお、南アフリカの現状について、多くは南アフリカ国立伝染病研究所(National Institute for Communicable Diseases)による、ワールドカップ観戦のための旅行者向けガイド(http://www.nicd.ac.za/、日本語訳は検疫所のHP http://www.forth.go.jp/12_news/2010/0510.html で入手可能です)を引用しています。

1.感染の機会が最も多い感染症
・感染性胃腸炎:多くの発展途上国への旅行と同様、旅行者がかかる感染症のなかでは、最も頻度が高いです(1)。生もの・生水や十分に加熱されていない食品を口にしない、という原則を守りましょう。ただし、スーパーマーケットやレストラン、認可されたファストフード店で販売されている食品(肉、青果物、乳製品)は一般的に安全と考えられています。しかし、街頭の出店や、公式に認可されていない店で提供されている食品には十分な注意が必要です。水道水などの生水を飲まないようにしましょう。

2.現在流行中、または通常流行シーズンをむかえる感染症
・インフルエンザ:南アフリカにおける、インフルエンザの流行シーズンは、通常6月〜9月とされています。6月11日現在、B型インフルエンザが少数報告されているようですが、ワールドカップ開催中に流行がはじまる可能性もあり、その場合には流行の中心は新型インフルエンザと推測されています(2)。試合観戦という「人ごみ」のなかでは、感染のリスクも低くはありません。喘息などの持病がある旅行者は、かかりつけ医へワクチンの必要性について相談するとよいでしょう。

・麻疹(はしか):南アフリカにおける麻疹流行は、メイン会場のあるヨハネスブルグが所在するGauteng州を中心に2009年の後半から始まり、では、2009年1月以降2010年3月までに、国内9つ全ての州から15,520名に上る麻疹患者が報告されています(2)。患者数が2回目のピークを迎えた2010年3月以降、患者数そのものは徐々に減少の傾向がありますが、5月中旬でまだ全ての州から合計200名程度の患者が報告されています。麻疹はインフルエンザと比較しても感染力が強いので、旅行前に2回の麻疹ワクチン接種が完了していることが望まれます。過去に一度も麻疹に対する予防接種を受けたことがなく、かかったこともない方は、渡航前に必ず、最低1回、可能であれば2回の麻疹の予防接種を受けるようにしましょう。発症予防レベルの免疫を獲得するには本来は2週間程度必要なことから、余裕をもった接種スケジュールを組むことが重要です。

3.南アフリカでは常時発生している感染症
・A型肝炎:清潔な上下水設備が整っていない国・地域では、水を介して感染する頻度が多いですが、そのほかに魚介類の摂取、性行為でも感染します。生もの・生水を口にしない、という一般的な注意に加え、2週間以上の長期滞在を予定している場合にはワクチン接種について検討するのもよいでしょう。

・狂犬病:狂犬病ウイルスに感染している哺乳類(南アフリカにおいては、犬の他、マングース、猫、牛、オオミミギツネなど)に咬まれることで感染します。むやみに動物に近づかないようにしましょう。感染し発病した場合には効果的な治療はなく、100%の致死率です。万が一、動物に咬まれた場合には、速やかに現地の医療機関へ受診し、傷の処置とともに狂犬病ワクチンを接種して下さい(曝露後ワクチン接種)。

・性行為感染症〔エイズ(後天性免疫不全症候群)、淋病など〕:南アフリカでは、15〜49歳の女性の出産前検査において、29%がエイズウイルスに対する抗体が陽性だったという報告があります。その他、通常の治療に用いられる抗菌薬に耐性を示す淋菌がまん延しています。不特定のパートナーと性行為をしない、コンドームの使用などの予防策を心がけてください。

 そのほかに結核も多く、髄膜炎菌性髄膜炎も流行期に入っています(ただし、現在散発的に患者が発生していますが、昨年に比べて多くはありません)。マラリアの流行している地域は、試合会場とは離れた地域(ジンバブエ、モザンビーク、スワジランドとの国境付近)にあるので、観戦だけの旅行ならリスクは低いでしょう。これまでに述べたいずれの感染症に関しても、重要なことは南アフリカ滞在中、移動の機内、帰国後のいずれの場合にも体調に変化がみられたら、すぐに医療機関を受診することです。国内の医療機関を受診する場合には、南アフリカで滞在した場所や期間も担当医へ告げるようにしてください。


【参考文献】
(1)Centers for Disease Control and Prevention. CDC Health Information for International Travel 2010. Atlanta: U.S. Department of Health and Human Services, Public Health Service, 2009.
(2)National Institute for Communicable Diseases. Measles Outbreak Update. http://www.nicd.ac.za/measles_out/measles_current.pdf



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