Q10:成人麻疹について教えて下さい。成人麻疹は何歳以上の者が麻疹を発症すると成人麻疹という対象となるのでしょうか? [2001年第16週(4月16日〜22日)]
●成人麻疹について
「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」において、「麻疹(成人麻疹を除く)」は4 類感染症の定点把握対象疾患になっており(つまり、麻疹に罹患した全患者数を把握しているわけではありません。これは成人麻疹についても同じです。)、同法に基づく感染症発生動向調査では、全国約3,000 の小児科定点から報告されます。「麻疹(成人麻疹を除く)」は()内に明記されているように、成人麻疹患者を除く18 歳未満の小児を対象としています。
感染症発生動向調査では、上記で報告される「麻疹(成人麻疹を除く)」とは別に「成人麻疹」(18 歳以上)という項目を設けてサーベイランスを行っています。これらの症例は全国約500 の基幹病院定点からの報告であり、多くは入院を要するような比較的重症例であると考えられます。(麻疹の流行状況については、週報の「注目すべき感染症」を参照して下さい。)
Q9:最近国内でもマラリア予防薬が認可になったと聞きましたが、本当でしょうか?旅行者が相談に来たら、どのように処方すればよいのでしょうか?
[2000年第26週(6月26日〜7月2日)]
●マラリアの予防薬について
マラリアの治療薬および予防薬として一世を風靡したクロロキンは、熱帯熱マラリアでの耐性が進んだことから予防薬としての価値も低下しており、それと入れ代わりにメフロキンが予防薬として主役の座を占めるようになりました。
マラリア予防薬としては今まで国内で認可されているものはなく、一般の細菌感染症の治療薬として認可されているドキシサイクリンがマラリア予防薬としても優れていますが、国内での正式な処方としては不可能であり、そのような状況の改善が望まれてきました。
このような状況下で画期的なことですが、4月4日付けでメフロキン(商品名メファキン)がマラリアの治療のみならず、予防にも認可となりました。しかし、治療薬としての保険収載やその他のことで、実際に市場に出回るのには半年程度はかかると予想されます。もちろん、予防薬としては全額自費払いとなります。
メフロキンが市販されるようになったら、旅行目的地でのマラリア特に熱帯熱マラリアの流行状況、旅行者の行動や宿泊場所、などからマラリア罹患リスクの評価を行い、必要な場合には処方することになります。しかし、副作用もないとは言えず、必要な場合にのみ処方することが大事です。結局、マラリア罹患リスクの評価と副作用のとらえ方に関わってきます。これにはある程度の専門性が必要となります。欧米ではトラベルクリニックが普及し、旅行医学の専門家が多く実地で活躍していますが、我が国ではその点立ち遅れています。我が国でもメフロキンの認可を機会に、相談できる専門的機関のリストアップ、適切な判断をするためのガイドラインの作製、などが望まれるところです。
(国立感染症研究所感染症情報センター)
Q8: 最近、ヨーロッパで口蹄疫の流行があり、家畜が大量に処分されたというニュースを見ました。あまり耳慣れない病気ですが、どんな病気でしょうか。人への影響はあるのでしょうか。(栃木県Wさん) [2001年第14週]
●口蹄疫について
口蹄疫とは、口蹄疫ウイルス(ピコルナウイルス科アフトウイルス属に分類されるFoot- and-mouth disease virus)の感染によって主に家畜(偶蹄類;ウシ、ブタ)の口や蹄に潰瘍が生ずる病気です。英語名ではFoot- and- mouth disease といわれ、ウシやブタがこのウイルスの感染を受けると、口や蹄にできた潰瘍によって摂食・歩行が困難になり痩せていき、商品価値が著しく低下してしまいます。家畜類の間での伝搬力は非常に強く、一度発生すると爆発的に広がることが知られており、畜産関係者にとっては恐ろしい病気として知られていますが、人に対する健康上の問題は通常ないと考えられています。
仮に感染した家畜の肉が食用に供されたとしても、人に健康上の危険性が及ぶということはありませんが、感染家畜が他の家畜への感染源となり、また感染肉が流通することによってウイルス自体が拡散し、さらに家畜に影響が及ぶことを恐れるため、ほとんどの場合感染動物は処分されます。英国での発生時にこのウイルスに感染した動物が大量に処分されたのは、そのためです。
主に小児の間で流行する手足口病(Hand, Foot and Mouth Disease: HFMD)と英語名が似ていますが、HFMD はエンテロウイルス71 、コクサッキーウイルスA 16 などの、口蹄疫ウイルスとは異なったウイルスによる異なった病気です。
(国立感染症研究所感染症情報センター)
Q7: 麻疹について、以下の3 点についてお尋ねします。
1) 麻疹ワクチン接種後、麻疹患者と接触したことがわかり、接触してから75時間程度(3 日以上)たっていたと考えられるため、麻疹ワクチン接種3時間後にガンマグロブリンを打ちました。この処置は発病阻止又は軽症化のための処置として適当でしょうか。
2) ガンマグロブリンにより麻疹ワクチンが中和され、ワクチンの効果が低下することも考えられますがいかがでしょうか。
3) また、ワクチンの効果が低下する場合、再度麻疹ワクチンの接種が必要でしょうか。 (石川県石川中央保健福祉センター) [2001年第4週(1月22日〜28日)]
●麻疹について
ご質問のありました麻疹について回答させていただきます。参考になれば幸いです。
まず、(1) について、麻疹患者と接触した場合の発病阻止又は軽症化にガンマグロブリンを接種された処置は適切であったと考えます。ただし、ガンマグロブリンが血液製剤であることについては、被接種者あるいは保護者に十分に説明し、同意を得た上での投与が重要であると考えます。筋注か静注かの記載がご質問の中にはありませんでしたが、麻疹の発病阻止又は軽症化のためには、曝露後できるだけ早く、遅くとも6日以内に筋注用ヒト免疫グロブリンを接種することが保険で認められており、10〜15mg/kgにて軽症化、50mg/kg 以上にて発病阻止効果があるといわれています。接触してから72 時間後の麻疹ワクチン接種では発病阻止又は軽症化は困難と考えますので、この場合、この方法が取り得る最適な方法であると思います。
(2) については、ご質問の通りで、ガンマグロブリンを投与されていますので、麻疹ワクチンとしての効果は期待できません。(3) の質問にも関連しますが、3カ月間はガンマグロブリンの効果によって麻疹の予防はできると思いますが、その後の麻疹の予防には麻疹ワクチンの再接種が必要になります。
(3) について、ガンマグロブリンの効果は1カ月で半減、3カ月でほぼなくなります。ただし、ガンマグロブリン投与後3 カ月以内に麻疹ワクチンを接種しても、効果が十分得られないため、麻疹ワクチンを再接種する場合は、ガンマグロブリン投与後3カ月以上空けて接種してください。
(国立感染症研究所 感染症情報センター)
Q6:ごく最近、マラリアの予防薬あるいは治療薬にて突然死した人があると聞きましたが、マラリア流行地へ行くことが多く、予防薬を現地で購入して飲むこともあるので心配です。(埼玉県K生) [2001年第10週(3月5日〜11日)]
●マラリアの予防薬・治療薬での注意
生来健康であった米国の22 才学生が西アフリカにてメフロキン(日本国内未認可、商品名Lariam, Mephaquin など)でのマラリア予防を行っていましたが、運悪くマラリアに罹患し、現地にてハロファントリン(日本国内未認可、商品名Halfan )を処方されました。それが効いたのか翌日には解熱しましたが、翌々日に急死しました。今まで気づかれなかったのですが、解剖の結果、肥大型心筋症(心臓の筋肉自体の病気)があることが判明しました(MMWR 50(09);169,2001)。
ハロファントリンはアフリカで良く使われているマラリア治療薬で、予防薬としては使われていませんが、健康な方でも心電図でのQT 間隔延長、場合により致死的な心室性不整脈を起こしうることが知られています。したがって、健康な方でも使用前には心電図検査を受けること、心臓に問題のある方では使用しないこと、などが強調されてきました。一方、メフロキンはマラリアの治療と予防に使われており、特に予防では熱帯熱マラリアが流行する多くの地域において使われています。メフロキン単独での予防ではこのような心臓の問題は、少なくとも健康者においては問題となっておりません。
問題はメフロキンで予防をしている、あるいは治療で服用した方が、すぐにハロファントリンを服用する場合であり、これはハロファントリンによる上記心臓の問題を起こしやすいので、健康者においても禁忌とされています。この米国人の死亡例ではさらに、外見全く健康でも肥大型心筋症があったこと、また、QT 延長を起こしやすい他の薬も同時に飲んでいたことなど、悪条件が重なったと思われます。しかし繰り返しますが、健康人でもメフロキンの後にハロファントリンを服用するのは危険であり、止めるべきであるということです。それでは、メフロキンを服用してどれだけ期間が経てばハロファントリンを飲んでも大丈夫かというと、今のところはっきり解っていません。
メフロキン、ハロファントリン両者ともに国内で市販されていませんが、海外にて入手あるいは処方されて服用する機会があるかもしれません。両者の組み合わせ、その順番などには十分注意しなければなりません。
Q5: クラミジア・トラコマチス抗体について、治療後のIgG,IgA,IgM 抗体の時間の経過に伴う変化について教えて下さい。2、3年前に感染の既往があると思われる症例について、今回検査したところ、いずれの抗体も検出されませんでした。一般には陰性化しにくいといわれているIgG ですが、クラミジアIgG 抗体の場合にはどの様な経過で推移するのでしょうか?(石川県石川中央保健福祉センター) [2001年第9週(2月26日〜3月4日)]
●クラミジア・トラコマチス抗体について
感染後のクラミジア・トラコマチス抗体の推移は、以下のような因子によってかなり異なります。
1 .性別
2. 暴露量
3. 治療
4. 個体差
5. 測定法
性差は、感染部位の面積による暴露量の違いということが大きいと思われます。解剖学的に女性の方が感染による暴露量は多いと考えられます。
女性で子宮頸管炎を起こした場合は、初感染時のみIgM が2 〜3 カ月検出されますが、あとは通常IgG, IgA 抗体が長期にわたり高値を示すことが多く、治療後も非常にゆっくりとしか抗体価は下がっていきません。特にIgG 抗体は長年にわたって低値から中等度維持され、感染既往としての指標ともなります。再感染や繰り返し感染があると再び高値になりさらに長期に抗体を維持することになります。とくに子宮付属器炎など長期に相当量の暴露量があったと思われる例や、不顕性感染例では、IgG 抗体の維持は生涯にわたることが多いようです。ちなみに、わが国の70 歳以上の方々の多くがかつてトラコーマに罹患していたことから、高年齢者のクラミジア・トラコマチスIgG 抗体保有率はかなり高値です。
一方、男性の場合は主に尿道炎ですので、感染面積が小さいため暴露量も少なく、感染後抗体が上昇してもあまり高値にならず、治療後比較的短期間で陰性化することがしばしばみられます。場合によっては抗体上昇がほとんど見られない男性尿道炎症例もあります。
次に治療ですが、早期にテトラサイクリン系薬、マクロライド系薬、ニューキノロン系薬等の抗クラミジア薬が十分な投与量と期間(例えば常用量で1 週間以上)使用され、除菌できた場合は抗体価もあまり上昇しないことがあります。また陰性化もしやすいようです。
お問い合わせの症例では詳細はわかりませんが、おそらく感染後治療されたものと思われ、2 、3 年後での陰性化は十分ありえます。
他に個体差や抗体測定法の違いも関係しますが、主な要因は先に述べたものと思われます。
(国立感染症研究所ウイルス一部クラミジアリケッチア室 岸本壽男)
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Q4:IDWR2000年第50号P.11-13 の海外感染症情報で、ヒトの狂犬病に関して米国やカナダの情報が記載されていますが、私も以前からMMWR 等でコウモリによる狂犬病に注目していました。日本においては1957 年以降狂犬病の発生がないとの事ですが、日本でも夕方など地域によってはかなりの数のコウモリが飛んでいるのを見かけます。日本にいるコウモリから狂犬病関連ウイルスが分離された報告があるのかどうか、あればその詳細を教えてください。(K 医科大学 I. Y.) [2001年第6週]
● 日本のコウモリにおける狂犬病ウイルス
日本のコウモリから狂犬病ウイルスを分離するという試みは、以前国立感染症研究所ウイルス一部でおこなったことがあります。電顕で砲弾型をしたウイルスが分離されており、rhabdovirus であることには間違いありませんが、このウイルスは、CDC から取り寄せたlyssavirus 共通のモノクローナル抗体には反応しませんでした。現在のところ、日本のコウモリから分離されたウイルスは、Australian bat virus を含むlyssavirus とは関連ないと考えています。
なお、我が国においてコウモリから狂犬病が感染したとの報告はありませんが、過去のことについては不明です。
Q3: 神戸市におけるアデノウイルス [投稿]
感染症週報IDWR (2000 年51・52合併号)の仙台・山形でのアデノウイルスの流行についての記事を読み、私の経験をお知らせします。
私は神戸市の新興住宅地で小児科医院を開業しています。3年前より簡易アデノウイルス抗原検出キット(アデノ・チェック)を使ってアデノウイルス感染の診療を行っています。 平成12年、当院でアデノ・チェックが陽性でアデノウイルス感 染と確定された症例数は、合計100例です(下表参照)。
10月に流行の兆しが見え始め、11月と12月に症例が急速に増加しました。流行は幼稚園・保育所を中心に広がり、家族内感染が見られ両親も罹患した例もありました(当院は小児科単科なので、この数字の中には成人の症例は含まれていません)。症状は典型的な咽頭結膜熱、滲出性咽頭扁桃炎、胃腸症状の強い症例、気管支炎等様々でした。発熱期間は4〜5日が多かったのですが、中には7〜8日も続き、病名がアデノウイルス感染症と分かっていなかったら不明熱で心配したと思われる症例も見られました。アデノ・チェックで確定診断できた症例以外にも、症状からはアデノウイルスが病因だろうと思われる症例がありました。家族内感染と考えられる症例の中に3〜4週間してから発症した例もありました。
アデノウイルスは外来診療で大きなウェイトを占めていることが、今回の流行でよくわかりました。なお、ウイルス分離は実施していませんのでアデノウイルスの型は不明です。
1 〜3 月
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4 月
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5 月
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6 月
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7 月
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8 月
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9 月
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10 月
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11 月
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12 月
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0(例)
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5
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0
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6
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1
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4
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2
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7
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34
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41
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神戸市 西村清子(小児科医) [2001年第5週(1月29日〜2月4日)]
Q2:韓国で麻疹が流行していると聞きましたが、どのくらいの規模のものでしょうか?日本でもまだ麻疹はあると思いますが、韓国への旅行者に何か注意がありますか? [2001年第4週(1月22日〜28日)]
●麻疹の流行状況
麻疹は合併症をおこす割合が高く、中耳炎が7%、肺炎が6%、その他に急性脳炎は0.1%に、麻疹罹患から5〜10 年後に生ずる亜急性硬化性全脳炎(SSPE)は麻疹罹患者10万例に1人発生する、といわれています。死亡率は医療状況によって異なりますが、いわゆる先進国でも0.1〜0.5%、途上国では10%前後ほどと考えられ、世界では未だ70 万人が麻疹により死亡していることが推定されています。
WHO ではポリオの次に制圧すべき疾患の候補の一つとして麻疹を位置づけています。北南米では、MMR ワクチン接種を強力にすすめることによる麻疹制圧のプログラムが進んでおり、また欧米を中心にして麻疹ワクチン(あるいはMMR)の2回接種法を実施している国が増えています。米国では年間の罹患者数も100人以下となっており、麻疹はもはや国内の病気ではなく輸入感染症であると言っています。
●韓国での状況
韓国ではMMR ワクチンの2回接種法が導入されており(1回目の接種率は90%以上、2 回目は30〜40%)、年間罹患者数は1995 年71 例、1998年4 例、1999年88例と減少していましたが、昨年3月頃より急激な患者数の増加がみられました(韓国での麻疹は全数届け出疾患となっており、サーベイランスシステムが1999年から強化されています)。
韓国国立保健院の発表によれば、2000年には年間約3万2 千人、2001年には1月15日までに約4 千人の麻疹患者が発生したといわれています(1/18 ・朝鮮日報より)。韓国では今回の問題をふまえて麻疹制圧のために厚生大臣をトップとした対策委員会を作り、5 カ年計画で2005 年までに制圧プログラムを行う予定と報じられています。
麻疹ワクチン接種は、世界中の子どもが受けるワクチン(EPI ワクチン)となっています。日本では、麻疹ワクチンは1 歳〜7歳半までの子どもたちが受ける定期接種ワクチンとなっていますが(標準的には生後12〜24カ月)、病気の重篤さから1歳の誕生日を過ぎたらなるべく早い時期にワクチン接種を受けることをおすすめします。
海外へ出かける子どもさんで定期接種としての麻疹ワクチンがまだ済んでいない場合には、韓国に限らず、行き先がどこであれ出来るだけ麻疹ワクチンを済ませてから出国することをおすすめします。なお大人を含めて7 歳半を過ぎて、これまで麻疹にかかったこともなく、麻疹ワクチンの接種をしていない方には、任意接種ワクチンの扱いとなりますが、麻疹ワクチン接種を受けておくことをおすすめします。
●日本の現状
日本では定点医療機関(約3,000)からの届け出の報告となりますが、2000年には年間に定点から22,497例の報告がありました。この定点観測では全体の患者数の10 〜20%位を把握しているという推計に基づくと、我が国では年間10 万人前後の麻疹患者が発生していると考えられます。
我が国での麻疹は、全体数としては減少傾向にありますが、韓国よりはるかに多い患者数で、現在でも、各地で局地的流行がみられています。たとえば平成10 年の沖縄県では2,000人以上が罹患し、6例が死亡しており、また、2000年以降も大阪府、千葉県、高知県、奈良県、大分県などで流行的発生が報告されています。
韓国からの帰国者での麻疹発症の報告もありますが(IDWR 2000年第50号)、日本からの出国者が米国で麻疹を発症し、米国における公衆衛生対策上の問題となったことも指摘されています。麻疹は、隣国の問題と言うよりも、むしろ日本自身の問題としてとらえる必要があります。
日本における麻疹ワクチン接種率は、地域差もありますが、ここ数年の平均は70〜80%にとどまっているという報告があります(予防接種の効果的実施と副反応に関する総合的研究・分担研究者磯村思无)。麻疹は医療状況が進んだ今日でも死に至ることが少なくない、重篤なウイルス性感染症です。確実な治療法はありませんが、効果の高い予防接種があります。1歳を過ぎたら、なるべく早い時期に麻疹ワクチンをすませることを強くおすすめします。
麻疹ワクチンの副反応として、接種後10日前後に発熱が約30%に、同時期に発疹が約10%にみとめられますが、いずれも軽症でほとんどは自然に消失します。麻疹の持つ重篤性から考えれば、これらは受け入れられる範囲の副反応であると考えられます。ごく稀に脳炎(100〜150万接種に1例程度)を伴うことが報告されています。日本において、麻疹ワクチンによる副反応が否定し得ないとして健康被害に対する救済(補償)が行われた例は、10万接種当たり0.5件、死亡に対する認定は同じく10万接種当たり0.06件です。また、ゼラチンアレルギーのある小児には注意が必要であるとされていましたが、現在の国産麻疹ワクチンからはゼラチンは除去ないし改良型が用いられており、ゼラチンによるアナフィラキシー反応例は激減しました。
Q1: インフルエンザ警報・注意報について教えてください。 [2001年第2週(1月8日〜14日)]
●インフルエンザ警報・注意報について
厚生労働省・感染症発生動向調査における新システム「警報注意報発生システム」は昨年末より本格運用が開始されました。本システムのねらいは、都道府県衛生主管部局や保健所など第一線の衛生行政機関の専門家に向け、公衆衛生上その流行現象の早期把握が必要な疾患について、流行の原因究明や拡大阻止対策などを講ずるための資料として、データに何らかの流行現象がみられることを、一定の科学的根拠に基づいて迅速に注意喚起することにあります。
流行発生警報と注意報の2種類があり、警報の発生は、大きな流行が発生または継続しつつあることが疑われるということを意味し、注意報の発生は、流行の発生前であれば、今後4週間以内に大きな流行が発生する可能性があるということ、流行の発生後であれば流行が継続している(終息していない)可能性があることを意味します。ほとんどの感染症では、時間の経過とともに流行が地域的に拡大あるいは移動していくものであり、流行拡大を早期に探知するためには、小区域での流行状況を広域的に監視することが重要です。本警報システムでは、感染症発生動向調査に関わる当該保健所とともに、当該都道府県内の全保健所の警報発生状況、全国の警報発生状況を把握することができます。
国立感染症研究所感染症情報センターでは、警報・注意報発生の対象疾患となる定点把握感染症のうち、インフルエンザについて、社会的要望の大きさを鑑み、流行シーズン中、本システムで得られた情報の一部を迅速に還元・提供することとしました。国立感染症研究所のホームページにおいて、最新の警報・注意報発生状況を日本地図上に都道府県単位で示しています(毎週更新)。本来、警報・注意報は保健所単位で発生しますが、ホームページ上では、一つでも注意報が出ている保健所があればその都道府県に黄色い色が、一つでも警報が出ていれば赤い色が表示されます。また、都道府県ごとに全保健所数と警報・注意報の出ている保健所の数を見ることもできます(国立感染症研究所感染症情報センターホームページ <http://idsc.nih.go.jp/index‐j.html> トピックス「インフルエンザ」より「インフルエンザ警報・注意報」を選択して閲覧)。
●警報発生の仕組み
警報は、1週間の定点当たり報告数がある基準値(警報の開始基準値)以上の場合に発生します。前の週に警報が発生していた場合、1週間の定点当たり報告数が別の基準値(警報の継続基準値)以上の場合に発生します。注意報は、警報が発生していないときに、1週間の定点当たり報告数がある基準値(注意報の基準値)以上の場合に発生します。
警報の基準値は、過去5年間の流行状況(全国の定点を有する保健所数×5年間×52週;インフルエンザ定点で延べ約17万週)の中で、一連の警報発生の起こる確率が1%程度になるように定めました。注意報の基準値は、警報発生前の4週間に注意報が出る確率を約60〜70%、警報が発生しない期間に注意報が出ない確率を約95 〜98%、注意報が出た場合にその後4 週間以内に警報が出る確率(注意報の的中率)を約20 〜30%になるように定めています。インフルエンザの警報・注意報の基準値は以下のとおりです(基準値はすべて定点当たりの値)。
警報対象疾患 |
流行発生警報 |
流行発生注意報
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開始基準値 |
継続基準値 |
基準値 |
インフルエンザ |
30 |
10 |
10 |
●警報発生を見るうえでの注意
本警報システムでは、過去5年間で1%以下の確率でしかおこらない規模の流行、すなわちかなり大きな規模の流行を想定しているので、小規模の流行、あるいは小地域での流行では、実際に地域流行があっても警報が出ない可能性があります。また、極めて限られた地域での流行では、警報が発生されてもその流行が継続や拡大をしない可能性もあります。
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