国立感染症研究所 感染症情報センター
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読者のコーナー(バックナンバー)

2000年掲載分

レプトスピラによる感染症が洪水のあとに増加することがあると聞きましたがどんな病気ですか?
米国ニューヨークなどで流行している西ナイルウイルスについて
最近、集団感染が発生し死亡者も出るなどしている「セラチア」とはどのような菌ですか
E.coli O1 型の病原性や対処法についての情報について教えてください。
ビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus)について
投稿:「溶連菌感染症について」
感染症発生動向調査に基づく平成11年度の届け出総数を教えてください。
感染症新法下の感染症発生動向調査における感染性胃腸炎について
「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症新法)」における感染症の分類について
「定点当たり報告数」とはどういう基準ですか?
従来の血清診断では診断がつきにくい型のレプトスピラについて教えてください。
薬剤耐性菌の届け出について、保菌者を報告数に含めるのかどうか明確に教えて下さい。
定点把握対象疾患における定点医療機関について
感染症週報(IDWR)のファイル形式について
「過去5年間の平均との比」グラフの読み方について



Q15:レプトスピラによる感染症が洪水のあとに増加することがあると聞きましたがどんな病気ですか? 2000年第36週(9月4〜10日)]


 レプトスピラ症(Leptospirosis)は、主に感染したネズミなどの齧歯類や他の保菌動物の尿を通じて人に感染する人獣共通感染症のひとつです。ヒトの病気としては黄疸出血性レプトスピラ病や秋季レプトスピラ病があります。秋季レプトスピラ病はノネズミが病原体を保有していて国内でも風土病的に存在していますが症状は軽くすみます。ここでは黄疸出血性レプトスピラ病について説明します。黄疸出血性レプトスピラ病病原体はスピロヘータ目のらせん状細菌であるLeptospira 属(L.interrogans serovaricterohaemorrhagiae)で、230 以上の血清型が知られています。1886 年のWeil らによる症状の記載が基礎となったために、ワイル病(Weil 病)と呼ばれることもあります。病原体の発見には日本人研究者が貢献し、1914 年炭坑労働者から稲田博士らにより分離されました。

 臨床症状としては、3‐14 日間の潜伏期間をへて悪寒、発熱、頭痛、腰痛、眼球結膜の充血などが生じ、第4 〜5病日に黄疸が出現したり出血傾向も増強します。病原体レプトスピラは感染したネズミの尿中に排泄されます。ヒトへの感染は、病原体に汚染された水との直接接触による経皮感染が多く、ヒトーヒト感染はありません。イヌなどの愛玩動物、ウシ、ウマなどの家畜なども保菌動物となりえます。世界中で報告がみられていますが、国内でもかつては多くの報告がありました。届け出義務のある疾病でないことから、最近の国内の罹患状況を把握することは困難ですが、病原微生物検出情報(IASR)に記事として山形県(1996‐1997 年に3例)や宮城県(1999年に1例)などの確定診断例が報告されています。また、米国ではトライアスロン競技参加者から発症した例(1998年)もあります。
 洪水やビルの倒壊などの災害では、市民や救助の警官や軍隊などに危険性が増すことが指摘されており、米国ではカヌー、ラフティングや洞窟探検などの近年のレジャー時における感染の危険性も強調されています。洪水の被害に遭われた地域で上記の症状がある場合にはレプトスピラ症を鑑別診断に加える必要があります。
 また、臨床的には黄疸出血性レプトスピラ病の可能性が極めて高くても、市販の試験などでは偽陰性の場合もあり得ますがそのような場合、国立感染症研究所細菌部で対応可能です。
(国立感染症研究所感染症情報センター・細菌部)  

 【連絡先】国立感染症研究所 細菌部
        電話:03‐5285‐1111 内線2224 (川端)
        FAX :03‐5285‐1163  電子メール:kbata@nih.go.jp

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Q14:米国ニューヨークなどで西ナイルウイルスが流行しているそうですが、日本で検査のできるところを教えてください。 [2000 年第35 週(8 月28日〜9月3日)]


 西ナイル脳炎患者の診断の基礎となる血液中の抗体価は、同じフラビウイルスに属し症状も似ている日本脳炎ウイルスと交叉するので検査では両者の鑑別が重要です。現在、国立感染症研究所ウイルス第1 部および長崎大学熱帯医学研究所などでこれらの鑑別診断が可能です。また、日本国内で西ナイル熱・脳炎が発生した場合に、患者サンプルを一般の血清検査ラボで検査した場合は日本脳炎と診断されてしまう可能性があります。一般的に日本脳炎ウイルスを媒介するコガタアカイエカは水田に発生しますが、西ナイル熱を媒介するイエカ類は都市部にも発生することから、日本国内で特に都市部で日本脳炎様症状を呈する患者が発生した場合などは、今後西ナイル熱脳炎も考慮にいれて検査依頼をする必要があると思われます。なお、現在までに日本国内では、西ナイル脳炎の患者発生は認められていません。
(長崎大学熱帯医学研究所 森田公一)   
【問い合わせ先】
・長崎大学熱帯医学研究所 分子構造解析分野(ウイルス学)
     〒852‐ 8523 長崎市坂本町1‐12‐4
     FAX :095‐849‐7830  
     電子メール:moritak@net.nagasaki‐u.ac.jp
・国立感染症研究所ウイルス1 部
     〒162‐ 8640 東京都新宿区戸山1‐23‐1
     FAX :03‐5285‐1188  
     電子メール:takasaki@nih.go.jp

◆成田空港検疫所では、7月末より出国ゲートにアメリカ東海岸への旅行者に西ナイル脳炎についての警鐘ポスターを掲示していましたが、9 月6日より、入国ブースに「アメリカ東海岸から帰国される方へ」というポスターを掲示し、「熱」等の症状の有る方、または蚊に刺されて心配な方に対して、血液検査をしますという呼びかけを実施しています。希望される方は成田空港検疫所健康相談室までお申し出下さい。なお、この検査は今年度の調査研究の一環として行なっているもので、今年の流行が終息したと思われる時期まで行なう予定です。
(国立感染症研究所 高崎智彦 倉根一郎)

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Q13:最近、集団感染が発生し死亡者も出るなどしている「セラチア」とはどのような菌ですか。また、セラチアが分離された場合、どのように判断し、対策はどのようにする必要があるか教えて下さい。(複数の医療関係者より) [2000年第33週(8月14日〜20日)]


●セラチアについて
 セラチア(Serratia marcescens)は、大腸菌や肺炎桿菌などに近い細菌で、赤い色素を産生する株もあり、パンがキリストの血で赤く着色するキリスト教の故事に因んで「霊菌」と呼ばれることもあります。糞便や口腔などからしばしば分離される常在菌の一種ですので、この菌が分離されたからといっても、ただちに「異常」や「病気」と言うわけではありません。
 セラチアは人に対しては弱毒性で、健常者の場合、セラチアが皮膚に付いたり、たとえ口から入っても、腸炎や肺炎、敗血症などの病気(感染症)になることはありません。セラチアの感染が問題となるのは、手術の後や重篤な疾患などが原因で感染防御能力が低下した際の感染症(いわゆる日和見感染症)で、特にセラチアが血液、腹水、髄液などから分離される場合です。そのような場合には、セラチアが産生するエンドトキシンにより血圧が急激に下がったり(ショック状態)また、その結果、腎臓や肝臓の機能が障害され、「多臓器不全」という状態に陥ると、死亡する危険性が高くなります。
 健常者の糞便などから分離される「通常のセラチア」は、ペニシリン(ABP)やセファロチン(CET)など初期のセファロスポリン系抗生物質に耐性を示しますが、セフォタキシム(CTX)やセフタジジム(CAZ)などの第三世代セファロスポリン系抗生物質やラタモキセフ(LOX)などのオキサセフェム系β‐ ラクタム薬、セフミノクス(CMN )などのセファマイシン系β‐ ラクタム薬、イミペネム(IPM)などのカルバペネム系β‐ ラクタム薬などに対し良好な感受性を示します。
 一方、各地から分離されつつある、「多剤耐性セラチア」には、CTX 、CAZ 、LOX 、CMN 、IPM などに広範な耐性を示すのみならず、アミカシンなどのアミノ配当体系抗生物質や、合成抗菌薬であるレボフロキサシンやシプロフロキサシンなどのフルオロキノロン系抗菌薬にも耐性を示すものがあり、それらの動向が警戒されています。特に、IPM に対する高度耐性には、IMP‐ 1型メタロ‐β‐ラクタマーゼの産生が関与しており、感染症や化学療法の専門家の間で警戒が高まっています。つまり、普通の黄色ブドウ球菌とMRSA 、普通の腸球菌とVRE が臨床的に区別して扱われているように、普通のセラチアと「多剤耐性セラチア」は、治療や対策の際に、区別して取り扱われる必要があります。
 通常のセラチアによる感染症が散発的に発生している場合は、個々の症例毎に、感染原因の特定や抗菌薬の投与など感染症の治療が中心となります。一方、院内感染対策が必要なのは、複数の患者の血液、髄液などの「無菌的」臨床材料から、同時期にセラチアが分離された場合で、何らかの共通の感染源が存在する可能性があり、普通のセラチアであっても、感染原因の究明と対策が必要になります。また、多剤耐性を獲得したセラチアが分離された場合には、内因感染症で、単発例や散発例であっても、MRSA やVRE と同様に、医療施設内での拡散を防止する対策が必要となるでしょう。(国立感染症研究所細菌・血液製剤部 荒川宜親)  *詳細記事、図表については「疾患別情報」をご参照下さい。

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Q12:老人保健施設に入所中の88 歳女性の便培養でE.coli O1 型が検出されたとの報告を受けました。種々検索致しましたが、同型の病原性や対処法についての情報がなく、お教え頂きたくメールさせていただきます。
 患者さんは1 週間前から下痢と微熱、食欲不振、軽度の吐き気が続いており、止痢剤に対する反応が不良です。全身状態は保たれておりますが元気がありません。よろしくお願い致します。(Tクリニック・F さんより) [2000年第31週(7月31日〜8月6日)]


 まず、患者さんの便から検出されたE.coli O1 はベロ毒素(VT1 またはVT2 またはその両方)を産生しているのでしょうか?産生していなければ一般の大腸菌感染症としての取り扱いで結構です。O1 に限らず、その他の血清型の大腸菌でも、検出された菌にベロ毒素産生がなければ腸管出血性大腸菌としての取り扱いは必要ありません。一方、検出された菌がベロ毒素を産生している場合は、感染症法に定める「腸管出血性大腸菌感染症」に相当しますので届け出が必要です。また、他の患者さんや医療従事者に感染が広がらないような手だてが必要です。厚生省のホームページに「一次、二次医療機関のための腸管出血性大腸菌(O157 等)感染症治療の手引き」http://www.mhw.go.jp/o-157/manual.html)が掲載されておりますのでご覧ください。

 治療について加筆すると、多くは他の大多数の下痢症の治療と同様で、水分の補給、生菌製剤の使用などであり、腸管蠕動抑制性の止痢剤の使用は避けるべきです。

 最近、腸管出血性大腸菌O157 感染小児例に抗生剤投与後HUS が増えたという外国報告が話題になりましたが、HUS を発症した小児に使用された抗生剤は、trimethoprim‐ sulfamethoxazole (ST 合剤)とcephalosporin であり、日本の使用状況と異なっています。しかし詳細が明らかになるまでは、これらの種類の抗生剤の使用は避けた方が良いでしょう。使用する抗菌薬についても前述のマニュアルを参考にして下さい。
 なお、最近O157 以外の腸管出血性大腸菌に関する問い合わせが多くなっておりますので、検出状況に関しましては以下をご参照下さい。
 IASR ホームページ(http://idsc.nih.go.jp/iasr/index-j.html)よりIASR2000 年5月号の特集記事「腸管出血性大腸菌感染症2000 年3 月現在」、表3 「腸管出血性大腸菌の血清型と毒素型」。(国立感染症研究所 感染症情報センター)

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Q11ビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus)について [2000年第29週(7月17日〜23日)]


◆ビブリオ・バルニフィカスとは?
 腸炎ビブリオやコレラ菌などと同じビブリオ科に属し、腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)と性状などで共通点も多いグラム陰性桿菌です。ビブリオ・バルニフィカス(V.vulnificus)の名前はこの菌が創傷(wound=vulnus)を起こすことに由来しています。主に暖かい海水中の甲殻類や魚介類の表面や動物性プランクトンなどに付着しつつ増殖し、周囲の海水中にも遊出します。2 〜3%の塩分濃度で良く増殖し、汚染された魚介類の摂取や皮膚の創傷などから人に感染します。
V.vulnificus のコロニー
◆どのような症状をおこし、どのくらいの症例があるか教えてください。
 健常者では下痢や腹痛を起こすこともありますが、重症になることはほとんどありません。しかし、免疫力の低下している人や特に肝硬変などの重大な肝臓疾患のある人や鉄欠乏貧血などで鉄剤を内服している人などでは注意が必要となります。肝臓でのクリアランスの低下や、血清鉄が細菌の病原性や増殖性を増すことなどから、細菌が血液中に侵入し、数時間から1 日の潜伏期の後、峰巣炎等の皮膚病変の拡大や、発熱、悪寒、血圧の低下などの敗血症様症状を起こし、生命を脅かすことがあります。この細菌が血行性に全身性感染をおこした場合、致死率は50 〜70%と非常に高くなります。
 米国ではメキシコ湾沿岸の州を中心に1988 年から1995 年までに300例以上の報告があります。国内でも現在までに分かっているだけでも100例以上が報告されています。

◆治療・予防方法を教えてください。
 治療は補液や抗菌薬による治療が中心となります。米国ではドキシサイクリンや第3世代セフェム薬剤が使用されます。国内でも、同様に第3世代セフェム薬剤やテトラサイクリンなどで胆汁排泄型の薬剤が効果があると言われていますが、病状が進行してからの投与は無効です。ハイリスクの人が生鮮魚介類を生食後、体調に不調を感じたら直ちに医療機関にかかることが重要です。
 我が国では刺身や寿司等の材料となる多くの魚介類の摂取が原因となっていますので、肝臓障害をもつ当疾患に対するリスクの高い人は、生の魚介類を控えた方が良いでしょう。
 一方、欧米での原因の多くは、生牡蠣の摂取です。予防方法としては、肝臓障害をもつ当疾患に対するリスクの高い人は、夏季に生牡蠣や十分調理されていない魚および貝類を食べないようにする。貝を煮るときには貝が開いてからも5分間、蒸す場合には9分間以上の調理を行う。開かない貝は食べないようにする。むき身の牡蠣は3分間以上ゆでるか、191℃で10分間以上油で焼く。調理済みの食品は他の生の魚介類からの汚染を防ぐ(まな板など)ようにする。調理したらすぐに食べる。
創傷があるときは暖かい海水や汚れた水が、傷に付着するのを防ぐなどの防御法をとることが必要となります。海岸や岩場で裸足で歩いて貝の殻などで怪我をし感染したと思われる事例も過去にありますので、ハイリスクの人は海岸での素足歩きは禁物です。
(国立感染症研究所感染症情報センター・細菌部・細菌血液製剤部)

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Q10投稿:「溶連菌感染症について」(◆千葉県S クリニックより)
 当医院におきましては昨年6 月より溶連菌感染症が継続的に流行しております。本来は、冬場に多い感染症とされておりますが、季節に関係なくすでに12カ月間と長期に渡り流行が続いております。この間、約3,000 例程度の症例の検討をして参りましたが、症状が非常に多彩であり、原因の同定がしづらい状況となっております。
 年齢に関係なく、最近頻繁に風邪を繰り返す、自分でもうまく説明できないが体調がすぐれない等の訴えが多く見受けられます。当初、私自らが同様の症状を呈し、溶連菌の流行に気付いたわけですが、その後も引き続き溶連菌が咽頭より証明(Strep.A :A群β溶連菌抗原検出用キット−ダイナボット)される症例が増える一方、症状が多彩になってきました。多い症状としましては、咽頭痛、発熱、咳嗽、全身倦怠感はもとより、胃腸障害(胃の不調、腹痛、嘔吐、下痢等)、頭痛、頚部痛、背部痛、胸痛、動悸、蕁麻疹さらには眩暈などがあげられますが、ただ単に体調の不調を訴える方もいらっしゃいます。昨年夏の流行当初には保育園、幼稚園、小学校などを中心に広がっていたようです。[2000年第27週(7月3日〜9日)]


感染症情報センターよりコメント
 ご存知のように、A群連鎖球菌は非常に多彩な臨床症状を引き起こす、もっともありふれたグラム陽性菌感染症です。病型として、急性咽頭炎、膿痂疹、蜂巣織炎、あるいは特殊な型として猩紅熱があり、これら以外にも中耳炎、肺炎、化膿性関節炎、骨髄炎、髄膜炎などがあり、また非化膿性疾患として、リウマチ熱や急性糸球体腎炎をおこすことが知られています。
 溶連菌感染症はいずれの年齢でも起こりますが、学童期に最も多く、3歳以下や成人では典型的な臨床像を呈する症例は少なくなります。感染症発生動向調査のデータからは一般的には冬に報告数が増加しますが、春から初夏にかけて患者数が増加する年もあります。通常、A群溶連菌性咽頭炎のある患者との接触を介して伝搬するため、ヒトとヒトとの接触の機会が増加するときに起こりやすくなりますが、流行状況に差があることの理由については不明です。なお食品を介した集団発生の報告もあります。
 病原診断は、咽頭培養により溶連菌を分離培養することが基本ですが、最近はA群多糖体抗原を検出する迅速診断キットが臨床の現場で広く利用されるようになってきております(健康保険適用)。迅速診断キットの特異度は一般的に高いといえますが、感度は50 〜95%とさまざまです。検査結果は抗原量、すなわち菌量に依存するため、咽頭擦過物を丁寧に採取することがよりよい結果を得ることになります。血清学的に、抗streptolysin‐O(ASO)、抗streptokinase(ASK)、抗hyaluronidase (AHD)、抗DNAase B(ADN‐B)、抗A 群連鎖球菌多糖体(ASP)などの菌体外抗原や菌体抗原に対する抗体の上昇を確認すれば、診断の参考になります。
 治療はペニシリン系薬剤が第1選択薬となります。ペニシリン系にアレルギーがある場合にはエリスロマイシンが適応となり、また第1世代のセフェムも使用可能です。いずれの薬剤であってもリウマチ熱、急性糸球体腎炎など非化膿性の合併症予防のために、少なくとも10日間は確実に抗生剤を投与し、服薬を指導することが重要です。なお適切な抗生剤治療が行われれば、ほとんどの場合24時間以内には他人への感染を防げる程度に菌量を抑制することが出来るので、抗生剤治療開始後24時間以上を経ていれば、全身状態の良いものは登校、登園等は可能になると考えられます。

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Q9:感染症発生動向調査に基づく平成11年度の届け出総数を教えてください。
 [2000年第26週(6月26日〜7月2日)]


●昨年度の全数把握対象感染症報告数について
 平成11年4月〜平成12 年3月までの全数把握対象の感染症報告数は以下の通りです。
 平成12年6月1日での集計で、今後変更になる可能性もありますので暫定データとして理解いただければ幸いです。また、診断日が平成12年3月31日までのものを平成11年度と分類しております。

1 類感染症   報告なし
2 類感染症 急性灰白髄炎
細菌性赤痢
コレラ
ジフテリア
腸チフス
パラチフス
報告なし
769
43
1
81
25
3 類感染症 腸管出血性大腸菌感染症 3,084
4 類感染症 アメーバ赤痢
エキノコックス
オウム病
急性ウイルス性肝炎
Q 熱
ク リプトスポリジウム症
クロイツフェルト・ヤコブ病
劇症型溶血性レンサ球菌感染症
後天性免疫不全症候群
(HIV 感染症を含む)
ジアルジア症
髄膜炎菌性髄膜炎
ツツガムシ病
デング熱
日本紅斑熱
日本脳炎
梅 毒
破傷風
VRE
マラリア
ライム病
レジオネラ症
349
11
26
1,756
14
5
117
37

769
61
17
603
6
39
5
949
76
29
140
14
89

 黄熱、回帰熱、狂犬病、コクシジオイデス症、腎症候性出血熱、先天性風疹症候群、炭疽、乳児ボツリヌス、ハンタウイルス肺症候群、Bウイルス病、ブルセラ症、発疹チフスについては、平成11年度は報告がありませんでした。

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Q8:伝染病予防法のもとの感染症発生動向調査では、乳児嘔吐下痢症と感染性胃腸炎を別々に報告していました。昨年4月の感染症新法の施行に伴って、発生動向調査では乳児嘔吐下痢症の疾患名が消え、感染性胃腸炎のみとなったようですが、過去のデータとの比較において、どのように考えればよいのでしょうか [2000年第23週(6月5日〜11日)]


●感染症新法下の感染症発生動向調査における感染性胃腸炎について
 感染症新法下の感染症発生動向調査では、「感染性胃腸炎」として、広く嘔吐・下痢症患者のサーベイランスを行うことになりました。旧法下での乳児嘔吐下痢症と感染性胃腸炎を合わせたものと考えて下さい。原因としてはロタウイルス感染症とSRSV 感染症がそのほとんどを占めますが、エンテロウイルス、アデノウイルスなどその他のウイルスによるものや細菌性のものも含みます。感染症週報のグラフ総覧における過去10年間との比較グラフでも、旧法下の「乳児嘔吐下痢症患者の定点当たり報告数+感染性胃腸炎患者の定点当たり報告数」と新法下の「感染性胃腸炎」を比較しています(グラフ総覧「感染性胃腸炎」参照)。
(回答担当:国立感染症研究所感染症情報センター)

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Q7: 海外の保健衛生担当者に聞かれたのですが、感染症新法ではどのような基準で感染症を1〜4 類に分類しているのでしょうか? [2000年第20週(5月15日〜21日)]


●「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下、感染症新法)」における感染症の分類について
 感染症新法における感染症の類型化は、公衆衛生審議会の場で専門家の方々から意見をいただいてとりまとめられたものです。近年の医学医療の進歩を踏まえた上で、個々の感染症の感染力や罹患した場合の症状の重篤性などに基づいて、総合的な観点からみた危険性の高い順番になっています。さらに、こうした危険性の程度にあわせて対人措置、対物措置や医療体制が規定されております。表1 にそれを示します。(厚生省保健医療局 結核感染症課)

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Q6:定点当たり報告数とはどういう基準ですか? [2000年第19週(5月8日〜14日)]


●定点当たり報告数について
 まず一言で説明しますと、全国の医療機関の中から感染症発生動向調査の観測用に抽出された医療機関を定点と呼びますが、その週(又は月)に定点一つ当たりでどの位の患者報告数があったかを表す数値です。例えば、全国(またはある都道府県)で、インフルエンザの報告数が定点当たり10人ということは、全国(またはある都道府県)の定点からのインフルエンザ患者の報告総数を定点数で割り算して、1定点当たりの平均値が10人であったということになります。

 もう少し具体的に説明してみますと、昨年4月から施行されています「感染症の予防及び感染症の患者の医療に関する法律」においては、感染症は1 類感染症から4 類感染症に分類され、4類感染症はさらに患者数の少ない感染症を全数把握対象として、患者数の多い感染症を定点把握対象として、二つに細分化されています。1類感染症から3類感染症と全数把握対象の4類感染症は、患者を診断した全ての医師が保健所へ届け出なければなりませんが、定点把握対象の4類感染症は、定点(医療機関)を設定し、その定点で診断された患者数のみが保健所に報告されます。この定点数は、感染症の流行状況について可能な限り日本全体の傾向を反映するように設計されており、インフルエンザ定点約5,000カ所(小児科定点を含む)、小児科定点約3,000カ所、眼科定点約600カ所、STD定点約900カ所及び基幹定点約500カ所が指定されています。

(参考)定点把握対象の4類感染症インフルエンザ、咽頭結膜熱、A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎、感染性胃腸炎、水痘、手足口病、伝染性紅斑、突発性発疹、百日咳、風疹、ヘルパンギーナ、麻疹、流行性耳下腺炎、急性出血性結膜炎、流行性角結膜炎、急性脳炎、細菌性髄膜炎、無菌性髄膜炎、マイコプラズマ肺炎、クラミジア肺炎、性器クラミジア感染症、性器ヘルペスウイルス感染症、尖形コンジローム、淋菌感染症、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症、ペニシリン耐性肺炎球菌感染症、薬剤耐性緑膿菌感染症
(回答担当:国立感染症研究所感染症情報センター)

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Q5: 従来の血清診断では診断がつきにくい型のレプトスピラについて教えてください。 [2000年第16週(4月17日〜23日)]


●国内で分離されている新しい方のレプトスピラに関する情報
 レプトスピラ症はレプトスピラ保有動物(主にげっ歯類)の尿によって汚染された水を浴びたり、動物への直接接触によって感染する人獣共通感染症でありワイル(Weil)病とも呼ばれる。1999 年5月より、本邦ではこれまで報告の無かったレプトスピラ種が、複数の患者検体より分離されてきている。いずれの患者も渡航歴が無いことから、国内での感染が疑われている。

 分離されているレプトスピラLeptospira meyeri は、以前より本邦での流行株として知られているLeptospira interrogans とは種・血清型が異なる。そのため、Leptospira interrogans 感染例では、感染早期を除き、既存の検査試薬を用いることで血清診断することが可能であったが、問題となるLeptospira meyeri 感染の場合には、これら血清診断では偽陰性となり、レプトスピラ症と診断されない可能性が高い。
 臨床症状は悪寒、発熱、頭痛、下肢などの筋肉痛、眼球結膜の充血などで発症し、第4 〜5 病日に黄疸が出現することも多い。臨床症状からレプトスピラ症が疑われるが、既存の血清診断で陰性あるいは反応が弱い場合で、問診において、以下のような感染の機会が多い環境に接した既往歴がある場合には当該菌によるレプトスピラ症を疑う必要がある。
 既往例:農業、鉱業、下水処理、工事、飲食業、食品加工業など、レプトスピラに汚染された水に直接・間接的に接触する機会が多い場合。保菌動物と濃厚に接触する機会がある場合(保菌動物を飼育しているもの、若しくはこれを売買するもの、動物病院などでの従事者等)。一般にレプトスピラの分離に使われるコルトフ培地、EMJH 培地を使用することで、当該菌も分離することが可能である。
 レプトスピラ症に関する情報・相談は下記で受けつけており、分離用培地の分与、およびLeptospira meyeri に対する抗体価検査が可能である。  

【連絡先】国立感染症研究所・細菌部 渡辺治雄、川端寛樹
     電 話:03‐5285‐1111 内線2201 (渡辺)、2224 (川端)
     ファックス:03‐5285‐1163
     電子メール:haruwata@nih.go.jp, kbata@nih.go.jp

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Q4県の健康対策課に勤めています。基幹病院定点の先生から質問を受けたのですが、医師は「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」第12条第1項第2号で定められた4類感染症の無症状病原体保有者を届け出なければならないことになっています。一方、通知「感染症新法に基づく医師から都道府県知事等への届け出のための基準について」(平成11年3月30日健医感発第46号)では、当該病原菌による感染症であることが報告基準の中に盛り込まれています。問題となっているのは薬剤耐性菌の届け出についてなのです。保菌者を報告数に含めるのかどうか明確に教えて下さい。 [2000年第15週(4月10日〜16日)]


● 薬剤耐性菌の届け出について
 感染症新法における第12 条第1 項第2号で定められた、4 類感染症のうち無症状病原体保有者(保菌者)を届けなければならないものについては、同法施行規則第4条第3項において規定されております。お尋ねの薬剤耐性菌によるもののなかでは、バンコマイシン耐性腸球菌によるもののみです。従いまして、これ以外のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌、多剤耐性緑膿菌、ペニシリン耐性肺炎球菌については、患者のみがサーベイランスの対象となります。バンコマイシン耐性腸球菌は、まだ日本では報告例が少なく、当面は病原体の分離そのものが報告として重要と考えられるからです。
 なお、通知「感染症新法に基づく医師から都道府県知事等への届け出のための基準について」(平成11 年3 月30 日健医感発第46 号)のバンコマイシン耐性腸球菌感染症の項で、「症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断がなされたもの」と書かれているので、一見すると患者のみの報告でいいように受け取られるかも知れませんが、この記述に続く病原体の検出の項で、vanA 、vanB 型について「当面は、便や尿から分離されるなど定着例が疑われるものを含む」となっており、無症状病原体保有者についての報告についてふれています。

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Q3: 感染症新法にて、4類感染症に定点把握対象疾患というのがありますが、この定点医療機関というのは、どのように決定されているのでしょうか。 [2000年第6週(2月7日〜13日)]


● 定点把握疾患における定点医療機関について
 感染症発生動向調査における定点把握疾患は、ご協力いただいている医療機関からの御報告をもとに、疾患の発生状況を把握し、あるいは日本全体での罹患率の推計が行われております。

 定点数は、新法施行前に研究班において種々の検討が行われ、標準誤差率5%以下で全国の罹患率が推定できるように、保健所管轄地域での定点数が設定されております。結果的には、保健所毎の管轄地域の人口に基づいて、日本全国で、小児科定点(約3,000)、インフルエンザ定点(小児科定点+内科約2,000 で、合計約5,000)、性感染症定点(約900)、眼科定点(約600)、基幹病院定点(約500)の定点数が決定されております。

 定点医療機関は、地域の医師会等の協力を得て、医療機関の中から可能な限り無作為に選定します。具体的には、まず対象感染症に関連する科を標榜する医療機関のなかから可能な限り無作為抽出をおこない、医療機関に同意を得て、指定するという手順を踏むこととなっています。もし同意が得られなかった場合には、再び無作為抽出を行って同意を得ることを繰り返し、最終的に設定された定点数の医療機関が選定されます。

 小児科定点からは、麻疹、水痘など小児によく見られる感染症、インフルエンザ定点からはインフルエンザ、性感染症定点からは淋病、性器クラミジアなど性感染症、眼科定点からは急性出血性結膜炎など眼感染症、基幹病院定点からは、急性脳炎、細菌性髄膜炎など重症の感染症とメチシリン耐性ブドウ球菌感染症など薬剤耐性菌感染症の御報告を頂いております。

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Q2毎週、感染症週報を拝見させて戴いておりますが、第51/52週分の週報がうまくみることができませんでした。これまでなんの支障もなくみることができたのですが、ファイル形式が変わったのでしょうか。それともウェブサーバにトラブルが生じているのでしょうか。 [2000年第3週(1月17日〜23日)]


●感染症発生動向調査週報のファイル形式について
 感染症週報は、Portable Document File (PDF)というファイル形式で作成されておりますので、ご覧戴くためには、まずファイルのダウンロードを行い、その後アドビアクロバットリーダー(Acrobat Reader)にてそのファイルを読み込んで表示していただく必要があります。アクロバットリーダーは、日本語版のバージョン4.0 をお使いいただくことをお勧めします(アクロバットリーダーは無償でアドビ社のホームページからダウンロード可能です)。旧バージョンですと、しおり機能が使用できないことがありますし、英語バージョンですと文字化けすることがあります。

 少なくとも御連絡いただいた前後に当センターのウェブサーバにトラブルはございませんでしたし、他からのクレームもございませんでしたので、サーバのトラブルではないと思われます。ただ、この週のものは、毎年年末は報告数が激減することから、51 週と52 週の合併号にしましたため、他の号よりも若干容量が大きくなっております。すなわち、通常は600 〜800KB ですが、この号に限っては1 MB でした。これまでも、使用されているコンピュータの搭載メモリが少ない場合、あるいは他のソフトウエア、あるいはシステムが占有しているメモリが大きく、残っているメモリが少ない場合には、PDF ファイルが読めなくなるということは報告されておりますので、メモリ容量が原因ではないかと考えます。通常の感染症週報ファイルを読むためには、一般的なウインドウズパソコンに搭載されている64MB メモリで十分と思われますが、今回のようにファイルが大きい場合には、相対的にメモリ不足になることはあり得ると思います。この場合には、メモリを増設するか、仮想メモリを使用する、あるいはメモリの割り当てを変更することが考えられますが、上述のように通常の感染症週報ファイルには、現在のままで問題ないのではないかと考えます。

 今後こちらでも、ファイル容量にも気を付けていきたいと考えておりますので、引き続き問題がございましたら、御連絡いただけましたら幸いです。

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Q1: 感染症週報が新しくなって発生動向総覧のページ(P.2)に「過去5年間の平均との比」というグラフが登場しましたが、このグラフの読み方が良くわかりません。教えて下さい。 [2000年第2週(1月10日〜16日)]


●「過去5年間の平均との比」グラフの読み方について
 このグラフはCPEG (現在過去経験グラフ:current/past experience graph)と言われているものを、感染症情報センターでわが国のサーベイランスに合うよう改変したものです。CPEG グラフは米国厚生省のCDC (疾病対策センター: Centers for Disease Control and Prevention)が発行しているMMWR (有病率死亡率週報:Morbidity and Mortality Weekly Report)という週報に取り入れられている方法です。

 MMWR では、データの週によるばらつきをなくしたり、未報告のデータを修正するために、処理時点から4 週さかのぼって、それらの週の報告数の合計を用いて統計処理をしています。わが国では、この方法に変えて、過去のデータと今年のデータを比較するために、その週の定点当たり報告数を用いています。これは、年によって、その週によって定点数に違いがあるため、報告総数を定点で割ってならすためです。統計処理を始めるに当たって、まず、過去5 年間のデータから平均値と標準偏差を求めます。例えば第n 週の統計処理には過去5 年間の、n-1週、n 週、n+1 週の3週分、つまり15カ月分のデータを使います。

 これで、たとえば過去の第n 週に祝日が含まれていたり、というようなデータの偏りもある程度補正されます。この15カ月分のデータも全て定点当たり報告数に換算してあります。そして、今年の第n 週の患者の定点当たり報告数を過去15 カ月分のデータより計算した平均値で割ります。さらにこの平均値の対数をとります。対数の底は10 です。したがってグラフの下についている目盛りの‐1.000 は今年のデータが過去の平均値の10 分の1 しかないことを表し、+1.000 は今年のデータが過去の平均値の10倍もあることを示しています。データの分布が正規分布に従うことを前提とすると、1SD は1 標準偏差、2SD は2 標準偏差ですので、平均値+1SD の中には過去のデータの68 %、平均値+2SD には過去のデータの95 %が入りますから、今年のデータが黄色いバー(+1SD <今年のデータ<+2SD )や赤いバー(+2SD <今年のデータ)となっている場合は、その疾患の定点当たり報告数が有意に多いことを示しています。コメントの文中では、「統計学的に例年より有意に多い」と言ったり、黄色いバーで表される疾患には「やや多い」、赤いバーで表される疾患には「かなり多い」を表現として使っています。

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