国立感染症研究所 感染症情報センター
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2001年掲載分(2)

ビブリオ・バルニフィカス感染症の診断などについて
ビブリオ・バルニフィカス/デング熱について
無症状病原体保有者の届出について
インフルエンザワクチンについて
予防接種後の抗体検査について
麻疹の感染予防について
日本脳炎ワクチンの接種年齢について
「厚生労働省感染症発生動向調査警報・注意報発生システム」とはどういうシステムですか?
香港のインフルエンザA (H5N1)について
鶏卵アレルギーのある幼児への麻疹ワクチンの接種について



Q10 ビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus )感染症の診断・治療方法と発生件数について教えてください。(東京都皮膚科医師) [2001年第31週]


●ビブリオ・バルニフィカス感染症の診断などについて
診 断
 ビブリオ・バルニフィカスの病原性は弱いので、健常人では稀に胃腸炎を発症するのみである1)‐ 3) 。しかし、慢性肝疾患、糖尿病、腎不全、免疫不全者などの慢性の基礎疾患を持つ患者には、原発性敗血症型、創傷感染症型を発症しうる1)‐ 3)。潜伏期間は海産物の生食後12 〜72 時間とされ1), 3) 、創傷感染型はそれ以上に及ぶことがある1 ) 。
 原発性敗血症型は、ビブリオ・バルニフィカスに汚染された海産物を生食後、嘔気、腹痛、下痢などの消化器症状、激しい疼痛や水疱、紅斑などの皮膚症状、発熱、悪寒などの症状がみられる1)‐ 3)。皮膚症状はいわゆる壊死性筋膜炎であり、急激に進行し、しばしばショックを呈する。創部感染症型は、夏期に創部を海水や汽水に曝露した後、同部の皮膚軟部組織感染症を発症し、進行すると二次性敗血症によって原発性敗血症型と同様の症状を呈する1)‐ 3)。嘔気、嘔吐は約半数にみられるが、腹痛や下痢は原発性敗血症型に比べて頻度が少ない2 ) 。
 夏期に、慢性肝疾患、糖尿病、腎不全、免疫不全者などの基礎疾患を有する患者での敗血症、創部感染症を診たら、本症を鑑別するため、発症前の海産物の生食、海水や汽水への創部の曝露について、本人あるいは家族に問診する。
 症状、問診で本症が疑われる場合、以下の手順で細菌学的検査を行い、診断を確定する。皮膚症状がみられた場合、皮膚の水疱内容液、浸出液をスライドグラスに塗沫して、ギムザ染色やグラム染色を行う1 ) ,4) ,5)。ギムザ染色で連鎖球菌が見られず、かつグラム陰性桿菌が見られれば、ビブリオ・バルニフィカスを考慮した抗生物質を選択する。併せて、皮膚の水疱内容液、浸出液を細菌培養に提出する。原発性敗血症型、創部感染症型では、血液培養で高率に菌を分離しうる。血液検体は一般に用いられる血液培養のボトルに採取すればよく、分離培養の過程で血液寒天培地では灰白色の集落が観察される1), 4), 5) 。血液検体や皮膚の水疱内容液を細菌検査室に提出する際、本症を疑っている旨を連絡しておけば、分離培養の段階でTCBS 寒天培地などの選択的培地を用いることで、同定までの時間を節約できるため、それだけ患者を救命できる。

治 療
 第三世代セフェム系やテトラサイクリン系の抗生物質が優れた抗菌力を示す1 ),4 ),5 ) 。それぞれ単独で投与するよりも、併用する方がより有効であることを示唆する報告がある6) 。発症から薬剤投与開始までの時間が短いほど救命率が高いため7) 、上記手順などを参考に診断を進め、可及的早期に適切な薬剤を投与し始めるべきである。
 また、デブリドマンや患肢切断術などの外科的処置が必要なケースもある1) ,5) ,8) 。とくに、基礎疾患を有する患者では進行が急激であるため、早期に外科的な処置を必要とする8) 。

疫 学
 本症は感染症法に基づく発生動向調査の報告疾患ではないため、年間患者発生数や死亡数などは不明である。しかし、1978 年の本邦第一例目以降、医学専門誌には約100例の患者が報告されている。
 1999 年古城らは本邦93例についてまとめている5)。それによると、患者の大半が7〜9月に発生し、関東以西の西日本からの報告が主であった5) 。男女比は6:1で男性に多く、7割が肝硬変、2割が糖尿病を合併しており、うち、魚介類の摂食歴があるものが74%、創傷感染型はわずかに9%であった5 ) 。また、死亡率は70%であった5 ) 。米国では1989 年より、アラバマ州、フロリダ州、ルイジアナ州、テキサス州、ミシシッピ州などメキシコ湾岸の5 州と米国疾病管理対策センター(CDC)でビブリオ感染症の発生動向調査が行われている。また韓国では、2000 年よりビブリオ・バルニフィカス敗血症の発生動向調査が行われている。それらによれば、米国では年間推定患者数は95例程度9) 、韓国では2000 年に35 例10) の患者が報告されている。
 原発性敗血症型の感染源は、米国ではほとんどが生ガキであるが2) 、日本人はいろいろな海産物を生食するため、感染源も多様であると考えられる。病型については、米国では創傷感染型が48%と半数近くを占めるのに対し2 ) 、日本では6%と少ない5) 。
 また、発症前の基礎疾患については、米国ではいわゆるアルコール依存症が46%(181/393 )2) 、韓国では70%(49/70)11) であるのに対し、古城らのまとめた症例一覧ではアルコール性肝障害の頻度が6%(6/96)5)と、米韓と比べその頻度に有意な差(p<0.01)がみられた。このように、日米韓での疫学には違いがみられるが、それが医学専門誌に報告される症例の選択バイアスによるものか、あるいは本邦における本症の疫学的な特徴であるのかについては、本邦における経口感染源、基礎疾患の特徴などと共に今後の解明が望まれる。

文 献
1 )黒木美鈴、河野茂:最新医学54 (3 月増刊号):76,1999
2 )Shapiro RL,et al :J Inf Dis 178 :752,1998
3 )Control of Communicable Diseases Manual,17th edition,APHA,2000,p111
4 )島田俊雄、荒川英二:食衛誌41 :396,2000
5 )古城八寿子、他:日皮会誌109 :875,1999
6 )Chuang YC,et al :Antimicrob Agents Chemother 42 :1319,1998
7 )Klontz KC,et al :Ann Intern Med 109 :318,1988
8 )Halow KD,et al :J Am Coll Surg 183 :329,1996
9 )Mead PS,et al :Emerg Infect Dis 5:607,1999 (http://www.cdc.gov/ncidod/eid/vol5no5/mead.htm )
10 )Communicable Diseases Monthly Report,12 (1 ),2001
11 )Park SD,et al :J Am Acad Dermatol 24 :397,1991

(国立感染症研究所感染症情報センター)

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Q9: ビブリオ・バルニフィカスというはどのような菌ですか?また、どのような人が感染すると危険なのでしょうか?(熊本県S医師) [2001年第30週]


●ビブリオ・バルニフィカスについて
 この菌は、乳糖発酵することなどの点で腸炎ビブリオとは異なることがわかり、1980 年にVibrio vulnificus の学名が付けられました(vulnus はラテン語で創傷の意味)。生物型はI-III の3種類、血清型は16 種類くらいが確認されています。腸炎ビブリオより塩濃度が低いところでも生育するので、海水中、特に汽水域などに生育し、海水温が15〜20 度位をこえると増殖が活発になります。

 動物プランクトンに付着し、このプランクトンなどから魚介類が汚染されます。病原性については不明な部分も多く、すべての菌が病気を引き起こすわけではないと推測されています。この病気は、傷口から菌が入る場合と、汚染された魚貝類などから経口感染する場合があり、後者は特に敗血症から死に至ることがあります。
 しかし敗血症については全ての人が発病するわけではなく、肝硬変、ヘモクロマトーシスなどの肝臓疾患、糖尿病、癌の治療やHIV 感染により免疫抑制状態にある人、などが危険であるとされています。患者の75%が肝臓疾患をかかえた人であるという報告もあります。

 鉄剤の投与の危険性も指摘されており、「バルニフィカスによる敗血症は肝疾患や肝障害患者で血清鉄が高値を示す時期の者、または治療の目的で鉄剤を投与されている貧血患者におこりやすい。」(朝倉書店 医系微生物学)と記載されております。
 動物実験でも、マウスを用いた実験でバルニフィカスの腹腔内投与の際、鉄剤を投与することによりLD50が100万倍も低下する、つまり少量のバルニフィカスで死亡するということがわかっております。しかしながら、鉄剤の経口投与のみの治療を受けている患者での発生は、ほとんど報告されておりません。
 実際には50歳以上の男性が80%を占めており、発病には種々の要素が絡むものと考えられます。また、肝疾患でも、どの程度の肝障害の人が気をつけたらよいのかなど不明な点も多く、今後の疫学研究に期待するところです。
 なお、この病気についての詳しい症状や治療法に関しては、当感染症情報センターのホームページ(http://idsc.nih.go.jp/index-j.html) の「疾患別情報」にも掲載されています。

(国立感染症研究所感染症情報センター)

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Q8: 感染症法のもとでは、ジアルジア症などの無症状病原体保有者を届け出る必要があると理解していましたが、届け出る必要はない、との意見もあるようです。どちらが本当でしょうか?(石川県研究者M. I. 氏)  [2001年第29週]


 ジアルジア症を含む4類感染症は、原則として有症状病原体保有者を対象としており、無症状病原体保有者を届け出る必要がありません。4 類感染症の中で例外的に無症状病原体保有者でも届け出るのは、HIV 感染症(法律上では後天性免疫不全症候群と記載)と梅毒だけです。これに対して1,2,3 類感染症は全て、無症状病原体保有者でも届け出ることになっています。(国立感染症研究所感染症情報センター)
  **************
公式見解はそうであったにしても問題は残ります。クリプトスポリジウム症では下痢が治まったあとも4 〜6 週間はオーシストの排出が続くし、ジアルジア症では無症状で長期間シストを排出する例は少なくありません。それらが環境水や水道水などを汚染して集団感染の原因になる可能性があります。この法律は感染症の予防に力点を置いたものであり、無症状病原体保有者をも届け出しないと法律制定の意味と効果は半減します。また、これらの届け出に特段の手間や経費がかかるわけではなく、届け出しないデメリットの大きさを考えれば、この点の改定をすべきであると考えますが、いかがでしょうか?(石川県研究者M.I. 氏)

上でご返答した事は、公衆衛生審議会(現、厚生科学審議会)による審議を踏まえて法律(感染症の予防および感染症の患者に対する医療に関する法律)で定められています。しかし、4類感染症の中ですでに規定されている上記2 疾患以外でも、無症状病原体保有者の届け出をするように今後扱いを変えるべきかどうかについては、これから検討を進めていく必要があると思います。

(国立感染症研究所感染症情報センター)

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Q7: インフルエンザワクチンについて勉強しているのですが、どうしても解からないことがあります。インフルエンザワクチンは毎年流行株を予測して作られるといいますが、あらゆる種類のウイルス株を入れてしまうことはできないのでしょうか?一緒に学習している友達と話し合って、あまりウイルス株が多すぎると病原性が現れてしまうからではないか、などと話したりしていますが・・・。(佐賀県医学生J.T.さん) [2001年第27週(7月2日〜8日)]


●インフルエンザワクチンについて
 現在のインフルエンザワクチンは不活化ワクチンですので、微生物としての活動性は完全に失活されているものが用いられます。したがって、そのウイルスのもつ病原性が現れることはなく、多くのウイルス株を用いたインフルエンザワクチンを作って接種を行ったとしても、インフルエンザの症状が現れることはありません。
 インフルエンザ不活化ワクチンは、交差免疫性(他のウイルス株に対する免疫性)はそれほど高くはないので、流行予想株を厳選する必要があります。一つのワクチンとして同じバイアルの中にたくさんのウイルス株を入れてしまうと、不必要なものが多すぎて生産が複雑になったり、免疫効率が落ちてくる可能性もあります。
 また、通常の1 回接種量である0.5ml のなかにワクチンとして含むことの出来る抗原蛋白量は限られているので、たくさんのウイルス株を入れることが出来ません。
 しかし、交差免疫原性が高いものの方がインフルエンザワクチンとして効率がよいので、最近米国で実用化された経鼻投与のインフルエンザ生ワクチンは、そのような点でメリットが高いと言われています。

(国立感染症研究所 感染症情報センター) 

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Q6: 1才8カ月の女児についての質問です。血液検査で過去の予防接種後の抗体検査をしました。検査方法はCF 法だそうです。おたふくかぜ、水ぼうそう(水痘)ともに4 未満で、数値的には抗体がうまく付いていないとの説明を受けました。もう一度予防接種を受けたほうがよいでしょうか?その場合の副作用のリスクはどうでしょうか?参考までに予防接種歴を述べておきます。
 5カ月:BCG &ツベルクリン
 7カ月:ポリオ
 10カ月:麻疹(通園する保育園で麻疹患者が出たため:自費)
 〜1才:三種混合(1 期初回)
    :インフルエンザ
 1 才2 カ月:水ぼうそう
 1 才4 カ月:おたふくかぜ
 1 才5 カ月:風疹
 1 才7 カ月:ポリオ
 1 才8 カ月:麻疹(公費)(埼玉県主婦F.Y.さん) [2001年第26週(6月25日〜7月1日)]


●予防接種後の抗体検査について
 CF 法という検査方法は感度があまり良くありません。そのため、水ぼうそうやおたふくかぜにかかった後しばらくの間しか陽性が続きません。ワクチン接種後の抗体価を測定する方法としてはあまり適した方法ではなく、おたふくかぜワクチン接種後の場合、CF 法ではおそらく陽性にはならないと思います。おたふくかぜはELISA 法で、水ぼうそうはIAHA 法で測定をしてもらうのが良いと思います。
 もちろん、上記(CF 法以外)の測定方法で測定しても陰性の場合、水ぼうそうやおたふくかぜの患者さんと接触するとかかってしまうことがありますが、再接種をした場合の副反応のリスクは、1 回目に受けたときと変わりはありません。万が一抗体陽性になっているのにワクチンをしたとしても、副反応が強くなることはありませんので、ご心配はいりません。

(国立感染症研究所感染症情報センター)

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Q5: 麻疹に感染した患者が出現した場合、周囲への感染の波及をできる限り抑制したいのですが、外来での消毒、隔離の必要性について教えてください。(H.N.さん) [2001年第25週(6月18日〜24日)]


●麻疹の感染予防について
 麻疹は感染力が非常に強く、厳密には陰圧部屋に隔離しないと完全に感染は予防できないといわれています。ただし、現実にはこのような部屋がある病院はほとんどなく、個室隔離を行い、診察時には医療従事者はガウンやマスク、帽子などを着用し、診察用具は他の患者さんとは別にし、診察後は十分な手洗いと消毒をするのが現状かと思います。
 とにかく、麻疹の患者さんはすぐに隔離室に入っていただき、少しでも他の患者さんとの接触を少なくするのがとり得る最善の方法と思います。退室後はできる限り日光を十分に取り入れ、換気に努め、床は次亜塩素酸ナトリウム0.1%溶液で清拭して30 分以上放置後、水拭きを行います。明白な汚染部分は1%溶液でぬらし、30 分以上放置して拭き取りをします。あるいは、消毒用エタノールで清拭します。
 医療機関で感染を受けることが多い麻疹、水痘に関しては、外来での消毒、隔離は非常に難しい問題だと思います。1 歳になればすぐにワクチン接種をしておくことを常日頃からご指導いただく以外、有効な手だては少ないと思います。
 麻疹に感染した患者が外来に出現してしまった場合は、上記の方法を迅速にとることと、その時外来にいる患者さんで、麻疹にかかったこともなくワクチンも接種していない方を早急に把握して、緊急ワクチン接種、あるいは緊急ガンマグロブリン接種などの方法で個別対応する以外、完全に予防する方法はないように思います。

(国立感染症研究所感染症情報センター)

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Q41歳8 カ月の子供の母親です。日本脳炎の予防接種の年齢についてですが、麻疹や風疹などは1歳から、3種混合などは6カ月からなのに、なぜ日本脳炎だけ3才以降なのでしょうか?3 才までは罹患率が低いのでしょうか?(埼玉県Y さん) [2001年第6週]


● 日本脳炎ワクチンの接種年齢について
 日本脳炎ワクチンの接種年齢ですが、現在我が国においては3 歳児を中心に接種開始が薦められていますが、生後6 カ月〜90カ月までの小児は定期接種として受けることができます。そのため、希望すれば各市区町村の予防接種の担当課に相談してください。ただしワクチンの接種量については、3歳未満は0.25ml 、3歳以上は0.5ml となります。

 お子さまの年齢が1 歳という事ですので、BCG 、ポリオ、三種混合、麻疹、風疹の予防接種が終わっているのであれば、日本脳炎ワクチンの接種を受けられても良いのではないかと思います。

 もし、これらのワクチンがまだであるならば、しかも関東地方にお住まいならば、日本脳炎ワクチンを急ぐよりは、これらのワクチンを先に済ませてしまった方がいいのではないか、と思います。ご質問の中に、「3 歳までは罹患率が低いのですか?」とありましたが、そういうことは言われていません。現実には、日本脳炎ウイルスに感染すると、数百人から千人に1 人が発病すると言われています。日本でも毎年調査が行われていますが、西日本を中心に、日本脳炎ウイルスに感染しているブタの割合は決して減っているとは言えません。ただし、予防接種の普及や都市化、網戸やクーラーの普及、農薬や休耕田の増加などによるコガタアカイエカの減少などにより、我が国の患者さんの数は激減しました。最近の患者数は年間10人未満で、ほとんどが60歳台をピークとする高齢者と、5 歳未満の乳幼児です。ただし、5歳未満の乳幼児の日本脳炎患者は、1991年以降は日本では報告されていません。

(国立感染症研究所感染症情報センター)

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Q4注目すべき感染症<麻疹>のなかに出てくる、「厚生労働省感染症発生動向調査警報・注意報発生システム」とはどういうシステムですか?インターネットで見ることができますか?(K.Y. さん) [2001年第21週]


● 警報・注意報発生システムについて
 厚生労働省感染症発生動向調査における新システム「警報・注意報発生システム」は昨年末より本格運用が開始されました。このシステムのねらいは、都道府県衛生主管部局や保健所など第一線の衛生行政機関の専門家に向け、公衆衛生上その流行現象の早期把握が必要な疾患について、流行の原因究明や拡大阻止対策などを講ずるための資料として、データに何らかの流行現象がみられることを、一定の科学的根拠に基づいて迅速に注意喚起することにあります。このシステムは感染症発生動向調査の一部に組み込まれているものであり、厚生労働省のWISH (wide-
area Information-exchange System for Health, Labor and Welfare Administration)と呼ばれるイントラネット上に存在するため、インターネット上で一般に公開されているものではありません。
警報には、流行発生警報と注意報の2 種類があり、警報の発生は、大きな流行が発生または継続しつつあることが疑われるということを意味し、注意報の発生は、流行の発生前であれば、今後4 週間以内に大きな流行が発生する可能性があるということ、流行の発生後であれば流行が継続している(終息していない)可能性が疑われることを意味します。ほとんどの感染症では、時間の経過とともに流行が地域的に拡大あるいは移動していくものであり、流行拡大を早期に探知するためには、小区域での流行状況を広域的に監視することが重要です。このシステムでは、感染症発生動向調査に関わる当該保健所とともに、当該都道府県内の全保健所の警報発生状況、全国の警報発生状況を把握することができるようになっています。
 国立感染症研究所感染症情報センターでは、警報・注意報発生の対象疾患となる定点把握感染症のうち、社会的要望の大きさを鑑み、インフルエンザや麻疹などについて、流行シーズン中、本システムで得られた情報の一部を迅速に還元・提供することにしています。

(警報発生の仕組み)
 警報は、1 週間の定点当たり報告数がある基準値(警報の開始基準値)以上の場合に発生するようになっています。前の週に警報が発生していた場合には、1 週間の定点当たり報告数が別の基準値(警報の継続基準値)以上の場合に発生します。注意報は、警報が発生していないときに、1 週間の定点当たり報告数がある基準値(注意報の基準値)以上の場合に発生します。
 警報の基準値は、過去5 年間の流行状況(全国の定点を有する保健所数×5 年間×52 週;延べ約17 万週)の中で、一連の警報発生の起こる確率が1%程度になるように定めてあり、注意報の基準値は、警報発生後の注意報を除いて、警報発生前の4 週間に注意報が出る確率を約60 〜70%、警報が発生しない期間に注意報が出ない確率を約95 〜98%、注意報が出た場合にその後4 週間以内に警報が出る確率(注意報の的中率)を約20 〜30%になるように定めています。各疾患の警報・注意報の基準値は以下のとおりです(基準値はすべて定点当たりの値)。

 
流行発生警報
流行発生注意報
警報対象疾患
開始基準値
継続基準値
基準値
インフルエンザ
30
10
10
咽頭結膜熱
1.0
0.1
-
A群溶血性レンサ球菌咽頭炎
4
2
-
感染症胃腸炎
20
12
-
水痘
7
4
4
手足口病
5
2
-
伝染性紅斑
2
1
-
突発性発疹
4
2
-
百日咳
1.0
0.1
-
風疹
3
1
1
ヘルパンギーナ
6
2
-
麻疹
1.5
0.5
0.5
流行性耳下腺炎
5
2
3
急性出血性結膜炎
1.0
0.1
-
流行性角結膜炎
8
4
-

なお、基準値はすべて定点当たりの値です。また注意報の数字が入っていないものは、注意報の対象外という意味です。

(国立感染症研究所感染症情報センター)

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Q2香港でインフルエンザにより大量のニワトリが処分されたと聞きました。香港旅行を予定していますが、罹るのではないかと心配です。国内ではインフルエンザのシーズンがほとんど終わりましたが、ワクチンを保管している医療機関を探して、打ってもらうほうがいいでしょうか?(東京都S さん) [2001年第19週(5月7日〜13日)]


●香港のインフルエンザA (H5N1)について
 1997 年香港において、ニワトリがインフルエンザA (H5N1 )の大流行で大量に死に、ヒトにも感染が見られ18 人が罹りましたが、不幸にもそのうち6 人が死亡しています。このとき香港政府は160万羽のニワトリを殺処分としました。ヒトを対象とするインフルエンザワクチンはA (H1N1)、A(H3N2)およびB型を対象としており、このインフルエンザA (H5N1 )に対しては効きません。また、A (H5N1)に対するワクチンの開発を各国が試みていますが、今のところ実用化に至ってはいません。
 今回の香港でのニワトリのインフルエンザもA (H5N1)ですが、1997 年の時のウイルスとは遺伝的に異なるものです。現在までのところ、今回の流行でヒトに罹った例は報告されていません。香港の衛生当局は、今回のニワトリのインフルエンザA (H5N1)の流行で大量のニワトリが死んでいること、これらのニワトリからヒトへの感染の危険は今のところないが、余り流行が長く続くと、このウイルスがヒトにも罹るウイルスに変わっていく可能性も危惧して、このように思い切って大量のニワトリを殺処分したとのことです。
 なお、運悪くヒトが罹る場合は、病気のニワトリに接して、気道(鼻粘膜、咽頭、気管・気管支など)からウイルスが侵入するためであり、鶏肉を食べて感染するわけではありません。養鶏場の見学など、大量の鶏に直接接触するようなことのない一般の旅行であれば、ニワトリインフルエンザに感染のおそれはほとんどないと言って良いと思います。

(国立感染症研究所感染症情報センター)

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Q1: 強い鶏卵アレルギーがある幼児に麻疹ワクチンを接種する場合、現在私は、ワクチン1 0 倍希釈液で皮内テストを行って接種の是非の参考にしていますが、どの程度の鶏卵アレルギーを有する人の場合皮内テストをする必要があるのかはっきりした基準を持っていません。一応IgE RASTで卵白スコアが3 程度か、実際に鶏卵を摂取してなんらかの即時型アレルギー反応が出たことのある場合に皮内テストを実施しています。皮内テストの必要性の有無、および、必要な場合どのレベルのアレルギー(できればIgE RASTスコアなど客観的指標で)に対し行うべきかご教授下さい。(和歌山県小児科医 井戸茂樹) [2001年第17-18週(4月23日〜5月6日)]


●鶏卵アレルギーのある幼児への麻疹ワクチンの接種について
 IDWR へのご質問ありがとうございました。この問題はご質問がたくさん来ており、実際に接種にあたってお困りの先生方が多いと伺っております。以下にご回答を記載させていただきました。卵アレルギーを有する小児に対する麻疹ワクチンに関してですが、麻疹ワクチンに含まれる鶏卵成分はきわめて少なく、麻疹ワクチンと卵アレルギーとの間に相関関係はないといわれています。実際に入っている鶏卵成分は、卵に関するアレルゲン診断用の皮内抗原液よりも微量です。
 このことから、麻疹ワクチン接種にあたって、卵成分を考慮する必要はあまりないと思います。実際に、卵アレルギーを有する小児に対する麻疹ワクチン皮内テスト(100 倍希釈液)と、卵白および卵黄RAST score との関係を検討してみた報告でも(第3 回日本ワクチン学会−於名古屋:
1999年)、まったく相関は認められていませんでした。ただし、鶏卵に対して強いアレルギーを有する小児においては、ワクチンの他の成分に対してもアレルギー反応を起こす可能性があるという意味で、皮内テストをスクリーニングとして行っているのが現状だと思います。

 ある施設での接種方法ですが(参考文献:小児科Vol.41.No.10, 2000,1778-1785)、アナフィラキシー反応既往者(原因は何であっても)や重篤なアレルギー疾患を有する小児には、まずワクチン液によるスクラッチテストを施行して陰性ならば、ワクチン100 倍希釈液による皮内テストを施行しています。それ以外の何らかのアレルギー疾患を有する小児に対しては、ワクチン100 倍希釈液による皮内テストから始めています。この方法でスクリーニングすることにより、重篤なアレルギ反応を認めた小児はいないようです。

 100 倍希釈液を用いたスクリーニングについての結果を参照いたしましたが、皮内テストに用いるワクチン希釈液として10倍、100 倍いずれを使用したほうが良いのかについては、まだ明確な結論は出ていないように思いますので、先生がご使用の10 倍希釈液でももちろん同じような結果が 出ると思います。
 先生のご質問の主旨である、皮内テストの必要性およびどのレベルのアレルギーに対し行うべきかについての明確なお答えにはならないと思いますが、接種医の先生のご判断で、アレルギー反応が心配される場合や、家族の不安が強い場合は皮内テストをするというのは如何でしょうか。

 ただし、即時型アレルギー反応既往者やこれまでのワクチン接種で何らかのアレルギー反応を認めた小児では、必ず施行した方がよいと思われます。もし、皮内テストをしなかった場合は、必ず接種後30 分間は院内に待機してもらい、アレルギー反応が起こったときはすぐに緊急処置を行うというのも一つではないかと思います。
 実際にこれまで、全くアレルギー歴がなく家族にもアレルギー疾患の人がいない小児において、アナフィラキシー反応を経験したことがあります。この小児はその後ゼラチンアレルギーであることが判明したのですが、ワクチン接種後は必ず30 分間院内での待機ができていれば、早急な対応ができるのではないかと思っております。現在各ワクチンメーカーのご努力により、ゼラチンは不含有、あるいはアレルギー反応を起こしにくいゼラチンを使用したワクチンが製造されていますので、ゼラチンに関してはご安心いただいてもよいかと思います。

 麻疹が現在日本各地で流行しています。一人でも多くの子供達に麻疹ワクチンが接種されることを強く希望いたします。

(国立感染症研究所感染症情報センター 予防接種室)

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