The Topic of This Month Vol.24 No.12(No.286)

ノロウイルス感染集団発生 2000.1〜2003.10

(Vol.24 p 309-310)

ノロウイルスはウイルス性胃腸炎の主要な病原体である。このウイルスを増殖させる培養細胞系が無いため、従来、ウイルス検出は電子顕微鏡による形態観察に頼っており、「小型球形ウイルス(SRSV)」と呼ばれていた。しかし近年、SRSV遺伝子の解析が大きく進み、主としてカリシウイルス科に属する2種類のウイルスであることがわかった。それらの属名として暫定的に用いられていた「ノーウォーク様ウイルス」を「ノロウイルス(Norovirus)」、「サッポロ様ウイルス」を「サポウイルス(Sapovirus)」とすることが2002年国際ウイルス学会で承認された(武田原稿参照)。ノロウイルスは現時点では二つのgenogroup(GIとGII)に分類され、それぞれに多数のgenotypeが存在する(片山原稿参照)。

1.食中毒統計:1997年5月30日に食品衛生法施行規則が一部改正され、食中毒病因物質に「SRSV」と「その他のウイルス」が追加された(本月報Vol.19、No.1、p.6参照)。厚生労働省食中毒統計でこれらが病因物質に計上された1998年以降をみると、SRSVによる食中毒患者発生は10月から始まり冬季に多いことが示されている(図1)。

食中毒病因物質として届けられているSRSVは、ほとんどがPCRでノロウイルスを検出していることから、2003年8月29日に食品衛生法の一部改正が施行されたのに伴い、病因物質の「SRSV」が「ノロウイルス」に改められた。ちなみに、ノロウイルス以外のSRSVは「その他のウイルス」に分類されることとなった(食品安全部通知参照)。

2.集団発生事例からのノロウイルス検出報告:上記食中毒統計とは別に、地方衛生研究所(地研)から国立感染症研究所感染症情報センター(IDSC)には「集団発生病原体票」が報告されている。これには、食中毒のみならず、病原体の人→人伝播や伝播経路不明の集団発生事例が含まれている。2000年1月〜2003年10月に、人(食中毒患者、胃腸炎患者または調理従事者など)からウイルスが検出された集団発生事例は 970件で(表1)、911件ではノロウイルスが検出された(823件はPCR、21件はEIA、67件はEIAとPCR)。このうち、GIIのみが 571件、GIのみが86件で、100件からはGIとGIIが検出された。2001〜2002年にGIIの割合が増加している(表1)。月別にみると、GI+GII検出事例は12月〜3月に集中していた(図2)。

伝播経路:食品媒介が疑われた事例が過半数を占め、人→人伝播が疑われた事例が1割、残る4割は伝播経路不明であった。GI+GII 検出事例は食品媒介事例が大部分を占め、逆に人→人伝播が疑われた事例ではGII のみが検出された事例が多かった。

集団発生の規模:集団発生の規模の分布をみるため、患者数が報告された863件について患者数を2の累乗で区切って集計すると、患者数9〜16人(181事例)を中心に分布していた。人→人伝播の疑われた事例では17〜64人が多く(図3)、感染が起こったと推定される場所は、学校(23件)、保育所・幼稚園(17件)、福祉・養護施設(14件)が多かった(兵庫施設内浜松特養原稿参照)。

さらに、食品媒介が疑われた事例(伝播経路不明も含む)について、感染の原因と推定される食品を摂取した場所(感染が起こったと推定される場所)別に患者発生規模をみると(図4)、家庭では8人以下が大部分を占めた。飲食店、ホテル・旅館では小規模〜大規模まで多様であった。福祉・養護施設、学校および保育所・幼稚園では33人以上が多かった。この他、事業所(21件)、病院(14件)でも33人以上が4〜5割を占めた。

患者数257人以上の4事例を表2に示す。最も患者数が多かった事例は小中学校の給食のきな粉ねじりパンが原因で、患者、調理従事者およびパンに付着したきな粉砂糖からgenotypeが一致するノロウイルスGIIが検出された(北海道原稿参照)。

原因食品:食品媒介が疑われた事例中、推定原因食品が記載されていた287件では、カキが154件、カキ以外の貝類が45件と、原材料汚染によると推定された事例が多かった。その他では宴会料理、弁当などの複合調理食品が多く、原材料汚染か二次汚染かが特定されていない事例が多かった。一方、パン、ケーキ・菓子類調理時の二次汚染が原因と推定された事例が4件あった(本月報Vol.23、No.10、p.12参照)。PCRで食品からもノロウイルスが検出された事例は55件で、うちgenogroupが判明したのはGIIが35件、GIが12件、GI+GIIが1件であった。上記のきなこねじりパンの他には、カキが46件、給食2件、ウチムラサキ貝、ハマグリ、赤貝などであった(本月報Vol.22、No.9、p.12Vol.23、No.5、p.11および兵庫調理済みカキ参照)。しかし、ほとんどの事例ではウイルス検出による原因食品の特定は困難で、また、貝類からノロウイルスが検出された事例では患者から検出されたノロウイルスとgenogroupが一致しない事例もみられた(9件)。

3.まとめ:カキをはじめ、貝類を原因食品とする食中毒集団発生防止のため、生食用カキの成分規格を定め加熱加工用と区別する、採取海域の表示を行なう(本月報Vol.20、No.11、p.7参照)、などいくつかの対策がとられてきたが、依然として食中毒件数は減少していない。最近、食品からのノロウイルス検出が可能となり、国産・輸入貝類のウイルス汚染状況が調査されている(市販生食輸入生鮮魚介類原稿参照)。また、食品のウイルス汚染に対するリスクマネージメントに関する検討が開始されたところである(山本原稿参照)。

一方、ノロウイルスは食中毒のみならず、冬季の感染性胃腸炎の流行も引き起こす。毎年末に小児の感染性胃腸炎患者からのノロウイルスの検出が増加しており(齊藤原稿参照)、小児の胃腸炎集団発生もこの時期に増加する(IASR No.12 p.9参照)。今シーズンも既に10月半ばから青森の保育園岩手福岡の小学校、滋賀の幼稚園で胃腸炎集団発生が報告されている。2001年には小学校でノロウイルスに感染した給食当番の児童を介した食品媒介の集団発生事例も報告されており(本月報Vol.22、No.9、p.12参照)、ノロウイルス流行中は特に学童の健康観察、手洗いの励行などが重要である。また、インフルエンザシーズン初期のインフルエンザ様疾患集団発生の病原体がノロウイルスである場合もあり(本月報Vol.21、No.2、p.6参照)、晩秋〜冬季には特に地域での病原体サーベイランス情報に注意が必要である。

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