The Topic of This Month Vol.25 No.10(No.296)

溶血性レンサ球菌感染症 2000〜2004

(Vol.25 p252-253)

2003年11月に改正された感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)では、A群溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes )が引き起こす感染症のうち、劇症型溶血性レンサ球菌感染症(toxic shock-like syndrome: TSLS)が全医師に届出義務のある5類感染症に、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎が小児科定点報告の5類感染症に位置付けられた(TSLSの届出基準はhttp://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/kansensyo/kijun5a.html#6、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の届出基準はhttp://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/kansensyo/kijun5b.html#17参照)。

劇症型溶血性レンサ球菌感染症:1999年4月の感染症法施行後、感染症発生動向調査において2004年9月3日までに報告されたTSLS症例は302例で、届出時点で死亡が報告されていたのは114例、うち65例(60%)は3日以内に死亡している。1999年4〜12月は22例(死亡10)、2000年46例(19)、2001年48例(19)、2002年89例(33)、2003年56例(15)、2004年は9月3日現在41例(18)が報告されている。発生には目立った季節性は認められない(図1)。患者の分布は岩手県以外の全国46都道府県にわたっており、特に地域差は認められない(図2)。患者は60代に多くみられ、平均年齢は55.8歳、性比は1.42(男177、女125)で、40、50、60代では男が多い(図3)。

病原体の記載があったものは約半数と少ないが、そのうちA群 150例、C群2例、G群6例、群別記載なし10例であった。このことは、TSLSが必ずしもA群のみによって引き起こされるものではないことを示している(本号6ページ参照)。

A群溶血性レンサ球菌の病原因子であるM蛋白の型別は重要であるが、血清学的方法によるM型別は実施困難であるため、近年、M蛋白の遺伝子(emm )型別が試みられている。一方、T型別は比較的容易であり、M型別との相関がある程度みられることなどから、疫学調査の手段として多くの施設で実施されている(本号3ページ5ページ参照)。わが国では、1992年に典型的なTSLS症例が報告されて以来、TSLSの病原体サーベイランスが衛生微生物技術協議会溶血レンサ球菌レファレンスセンターで行われている(本月報Vol.18, No.2参照)。2000年〜2004年8月までにT型別とemm 型別を実施した109例中、T1/emm1 が46で、全体の42%を占めた。T3/emm3 が10、TB3264/emm89 が9、T28/emm28 が8、T12/emm12 が7、T4/emm4 、T6/emm6 、T22/emm22 が各3、TB3264/emm103 が1であった(図4)。最近増加しているT 型別不能株では、emm49 が7、emm58 emm75 emm81 が各3、emm73 emm77 emm78 が各1であった。後述の咽頭炎患者由来株とは異なり、TSLS患者由来株では、毎年T1/emm1 の分離数が多いことが特徴であるが、2004年に入ってからは、T1/emm1 の分離数は少ない(本号3ページ参照)。なお、T型別不能/emm49 は1999年以前には分離されなかった型である(本月報 Vol.24, No.5参照)。ちなみに「平成15年溶血レンサ球菌レファレンスセンター報告書」は感染症情報センターのIASRホームページで見ることができる(http://idsc.nih.go.jp/pathogen/refer/str2003f.pdf)。

A群溶血性レンサ球菌咽頭炎:感染症発生動向調査によるA群溶血性レンサ球菌咽頭炎の1定点医療機関当たり患者報告数[( )内は患者報告数]は、2000年は53.10(158,143)、2001年は51.32(154,932)、2002年は51.38(155,999)、2003年は54.73(166,437)と推移し、2004年の患者報告数は第38週現在、53.05(161,115)と多い。一定点当たり患者報告数は、毎年夏に減少している(図5)。また、患者は4〜7歳が中心で、年齢分布に大きな変化はみられない(本月報Vol.21, No.11参照)。

2000〜2003年に全国の地方衛生研究所でT型別が実施されたA群溶血性レンサ球菌の年間報告数は、1,909〜2,627であった。各年とも検出数が上位のT型はT12、T1およびT4で、この3つの型で分離数の50%以上を占めている(図4)。また、これらの型やT11、T28、TB3264のような血清型では検出数全体に対しての割合の年次変動が小さい。一方、T3は1993〜1994年と2002年、T6は1997年、T18は1994年をピークとする急激な増加が見られ、分離頻度の年次変動が大きい(http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/circle-g/past/st5j.gif参照)。主なT型別検出数の2000年以降の月別推移をみると、それぞれの型は異なる時季に増加しているが、夏に一斉に減少していることがわかる(図6)。

また近年、人から人への感染だけではなく、食品を介しての咽頭炎の集団発生も報告されている(本月報 Vol.18, No.11Vol.18, No.12, Vol.19, No.12, Vol.20, No.5, Vol.25, No. 2Vol.25, No. 4参照)。調理従事者の咽頭炎症状についても注意を払う必要がある。

まとめ:現行の感染症法の届出基準は、1993年に米国CDCが提案した診断基準に準拠して、病原体をA群溶血性レンサ球菌に限定している。しかし、最近の知見によれば、TSLS症例から、C群、G群が分離されるケースが増えてきているため、今後、TSLSの届出基準の見直しが必要であると思われる。

また、現行では、患者届出時の報告では転帰について十分に把握することができないため、届出後に死亡が判明した場合などは修正報告をお願いしている。今後は、系統的に予後などの情報についても確認できるようにしていくことが必要である。

上記レファレンスセンターが行った薬剤感受性試験では、この感染症の第一選択薬の一つであるクリンダマイシンに対する耐性菌が2000年以降報告されている(本号3ページ参照)。しかし、レファレンスセンターで検査されたTSLS患者由来菌株数は届出患者数全体の4割と少ないので、全体像を把握するためには、今後さらに、溶血性レンサ球菌の菌株を収集するシステムを強化する必要がある。感染症発生動向調査において病原体サーベイランスの対象となっているTSLS患者およびA群溶血性レンサ球菌咽頭炎患者から菌を分離し、型別や薬剤感受性の動向を把握し、その情報を還元することが、患者の早期診断、早期治療を行うために重要である。

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