The Topic of This Month Vol.31 No.2(No.360)

麻疹 2009年
(Vol. 31 p. 33-34: 2010年2月号)

WHOの推定によると、世界の麻疹による死亡者数は2000年の73.3万人から2008年には16.4万人と78%減少した。また、同期間に患者報告数も3分の1に減少した(本号25ページ)。日本を含むWHO西太平洋地域では2012年を麻疹排除の目標年としている(IASR 30: 45-47, 2009)。

日本における定期予防接種としての麻疹ワクチン接種は、従来生後12〜90カ月に1回であったが、2006年度に第1期を1歳児、第2期を小学校就学前1年間と変更して麻しん風しん混合ワクチンによる2回接種を開始した(IASR 27: 85-86, 2006)。しかし、2007年に10代〜20代を中心とする流行が起こったため(IASR 28: 239-240, 2007)、2008〜2012年度の5年間の経過措置として、予防接種法に基づく定期接種に第3期(中学1年相当年齢の者)と第4期(高校3年相当年齢の者)の2回目接種を追加した。また、感染症法に基づく麻疹患者サーベイランスを、2008年1月から全数報告に変更した(IASR 29: 179-181, 200829: 189-190, 2008)。従来の定点報告は臨床診断による届出であったが、1回ワクチン接種者などで典型的な症状を示さない修飾麻疹がみられることから、修飾麻疹についても検査診断による届出が求められている(http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/guideline/doctor_ver2.pdf)。

感染症発生動向調査:2009年第1〜53週に届出された麻疹患者は検査診断例438人(うち、修飾麻疹193人)、臨床診断例303人、計741人(人口100万対5.80)(2010年1月7日現在報告数)で、2008年の11,015人から大きく減少した。週別報告数は(図1)、最も多い第29週でも30人であり、第34週以降さらに減少傾向にある。

都道府県別報告数は(図2)、千葉116人、東京112人、神奈川97人、大阪57人が50人を超え、千葉、東京、神奈川に埼玉44人を合わせた首都圏4都県で全体の半数を占めた。その他では、愛知、福岡、広島が20人を超えていた。患者が多かった都府県でも1週間に10人を超えた週はなかった。秋田、高知、熊本は報告がなく、この3県と石川が麻疹排除の指標である人口100万対1を下回った。

患者は男371人、女370人とほぼ同数で、年齢分布は(図3)、1歳が140人と最も多く、0歳74人、2歳42人の順で、2008年にみられた15〜16歳のピークは消失した。ワクチン接種歴は、未接種176人、1回接種352人、2回接種32人、不明181人であった。0歳児は未接種73人、不明1人、1歳児は未接種42人、1回接種96人、不明2人であった。

2009年には5類感染症全数報告疾病である急性脳炎としての麻疹脳炎の届出はなかった(2007年、2008年は各9人)。

施設別集団発生状況:2009年4〜12月(夏休み期間中を除く)には麻疹による休校、学年閉鎖、学級閉鎖の報告はなかった。

麻疹ウイルス検出状況:麻疹ウイルスはA〜HのCladeに分類され、さらに23の遺伝子型に細分される。国内では、2001年の流行ではD5型、2002〜2003年はH1型が主に検出されたが(IASR 25: 60-61, 2004)、2006〜2008年の流行ではD5型が主に検出された(IASR 30: 29-30, 2009)。2009年には地方衛生研究所(地研)で麻疹患者からD5型3件(沖縄で2月に2件、4月に1件)、D9型1件(山形で3月にタイからの輸入例、本号15ページ)、D8型1件(沖縄で9月に国内例から日本初、IASR 30: 299-300, 2009)が検出された。なお、A型(ワクチンタイプ)が4月に東京(水痘患者)と大阪(ヘルパンギーナ患者)、6月に福岡(突発性発疹患者)で各1件、計3件検出されている(2010年1月29日現在報告数http://idsc.nih.go.jp/iasr/measles.html)。

感染症流行予測調査(本号4ページ):ゼラチン粒子凝集(PA)法で抗体陽性は1:16以上であるが、麻疹の発症防御には少なくとも1:128以上が必要とされる。2009年度の1歳児では麻疹PA抗体価1:16以上の保有率は73%と十分とはいえなかったが、2歳児では第1期接種を反映して96%と高かった。0歳、1歳、10歳、15歳が95%に達していなかった。一方、2008年度に開始された第3期、第4期接種を反映して、12〜14歳と17〜19歳では1:256以上の高い抗体価を保有している割合が、2008年度に比べて大きく増加していた。20代以上は2008年度同様幅広い年齢に1:128未満の低抗体価の者が1割以上存在している。

ワクチン接種率:2008年度最終(3月末)の麻疹を含むワクチンの全国接種率(第1期は2008年10月1日現在の1歳児の数、第2〜4期は各期の接種対象年齢の者を母数とする)は第1期、第2期、第3期、第4期それぞれ94%、92%、85%、77%であった(本号7ページ)。都道府県別では、第1期〜第4期すべてにおいて90%以上であったのは、山形、福井、佐賀の3県のみであった。患者の多かった東京、神奈川、大阪は第3期と第4期の接種率がともに低い。

接種率向上への取り組み:麻疹排除を達成するには、麻疹ワクチン接種率のさらなる向上が必要である(本号16ページ)。秋田では1987〜1988年に10人が死亡した大流行と2007〜2008年の局地流行をふまえ、関係者が一体となって新たな予防接種勧奨キャンペーンのために2010年から4月を「秋田県はしか排除推進月間」とする準備を進めている(本号9ページ)。養護教諭が中心となって第4期接種率95%を達成した高等学校もある(本号10ページ)。

ワクチン接種対象年齢に達しない0歳児の麻疹を無くすには国内からの麻疹排除しかない。なお、今年度の第2、3、4期接種対象者は3月31日を過ぎると、公費負担対象外となり、自己負担での接種となるので注意が必要である。3月の子ども予防接種週間(3月1日月曜〜3月7日日曜)には、休日・夜間の接種を実施する地域医師会があるので、対象者はこれらの機会を利用し、年度内に接種を受けることが勧められる。

麻疹検査診断の重要性:予防接種が普及し患者数が大きく減少するにつれて、相対的に接種歴ありの修飾麻疹の割合が増加しているため、臨床症状のみでの診断は困難であり、検査診断の重要性が増している。しかし、2009年の届出患者の4割は臨床診断であり、検査診断例のほとんどは検査センターでのIgM抗体検査であった。IgM抗体検査では偽陰性、偽陽性があり、結果の解釈に注意が必要である(本号11ページ12ページ)。

「麻しんに関する特定感染症予防指針(2007年12月28日厚生労働省告示)」では患者数が一定数以下になった場合、原則としてすべての発生例を検査診断することとしている。日本は世界の麻疹風疹実験室ネットワークに参画し(本号3ページ)、2008年6月に地研と国立感染症研究所(感染研)は麻疹・風疹レファレンスセンターを設置して、PCRと抗体検査による検査診断体制を整備している(IASR 30: 45-47, 2009)が、検体が地研に搬入されないことが多い(本号14ページ)。

今後の対策:今後は、医療機関、保健所と地研・感染研の連携を強化し、麻疹疑い患者全例について確実に検査診断を含む積極的疫学調査を実施して感染拡大を防止する必要がある。そのために、感染症法に基づく麻疹の類型の引き上げなどについても検討していく必要がある。

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