The Topic of This Month Vol.27 No.2(No.312)

つつが虫病/日本紅斑熱 2005年12月現在

(Vol.27 p 27-29:2006年2月号)

つつが虫病はツツガムシが保有するOrientia tsutsugamushi 、日本紅斑熱はダニが保有するRickettsia japonica による、わが国常在の代表的なリケッチア感染症であり、1999年4月に施行された感染症法に基づく感染症発生動向調査では全数把握の4類感染症となっている。いずれの疾患も農作業、森林作業、山菜採取、レジャーなどの野外活動中の感染が多い。両疾患とも、発熱、発疹、刺し口の3兆候が特徴で、臨床症状のみでは鑑別が困難で、実験室診断が必要である。

つつが虫病:古典型は、江戸時代から風土病として知られていた。1980年代に新型の患者が増加したものの、1991年以降減少傾向にあった(IASR 22: 211-212, 2001参照)。感染症法施行後の年間患者報告数は2000年に794例まで増加したが、2001〜2005年は、491、339、407、314、334例(2006年1月26日現在報告数)と400例前後で推移している(図1)。2001〜2005年には北海道、奈良県、愛媛県を除く全国から患者が報告されている(図2a)。ただし、2001年の沖縄県の患者は他県での感染が推定されている。鹿児島県をはじめ、福島県、宮崎県、秋田県、千葉県で100例以上の報告があるなど、特定地域での集積が見られる(表1)。患者の年齢は全年齢にわたり、70〜74歳がピークで、男968:女916と男性がやや多い。

月別患者発生数は、全国集計では3〜5月の春と11〜12月の秋口から初冬にかけた二つのピークがある(図3)。患者発生はツツガムシ生息地域での幼虫の活動時期に左右され、秋に孵化したツツガムシ幼虫が越冬すると春先にも患者が発生する。鹿児島県、宮崎県など積雪がまれな西日本地域では秋口から初冬にかけた発生が多い。秋田県、福島県など積雪のある東北地方では春にも患者が増加するが、秋から初冬にもピークがみられる場合もあり、一定ではない。北陸地方では、患者の大部分が11、12月に報告されている。

つつが虫病の実験室診断は、地方衛生研究所(地研)において間接蛍光抗体法(IF)または間接免疫ペルオキシダーゼ法(IP)による血清診断およびPCRによるDNA検出が行われている。血清診断にはO. tsutsugamushi 標準3株(Karp、Kato、Gilliam)の抗原が主に用いられるが、標準3株以外の血清型の株(Kawasaki、Kurokiなど)による感染では、血清抗体価の上昇が確実に検出できない場合があるため(IASR 22: 211-212, 2001参照)、各地域で検出されるO. tsutsugamushi の血清型の抗原を用いることが患者を確実に診断する上で重要である。神奈川県、宮崎県の調査ではKawasaki型の感染が約3分の2を占め、次いでKuroki型が約4分の1を占めていた(本号3ページ4ページ参照)。島根県ではツツガムシの採集調査も実施し、Karp、Gilliam型の感染が主であることを報告している(本号7ページ参照)、なお、一部の民間検査所でも標準3株を用いたIFを実施している。

つつが虫病はテトラサイクリン系の抗菌薬が著効を示す。しかし、確実な治療が可能であるにもかかわらず、しばしば死亡例がみられる。2001〜2005年には、青森、岩手、山形、福島、京都、島根から各1例、新潟から3例の計9例(いずれも60歳以上)の死亡が届け出時点で報告されている。

住民への早期受診の注意喚起、医療関係者への早期診断・治療を促すための情報提供が必要である。そのためには各地域でツツガムシの活動状況と患者発生状況について情報を集積し、気象条件や地理的条件などの自然環境を考慮した解析を行うことが必要である。なお、2001〜2005年の報告において韓国2例、ネパール1例など9例は海外での感染が推定されており、海外での感染も忘れてはならない。

日本紅斑熱:本疾患は1984年に徳島県において初めて報告された。臨床的にはつつが虫病との鑑別は難しいが、潜伏期間が2〜8日とやや短く(つつが虫病は10〜14日)、典型例では発疹は四肢に強く(つつが虫病では体幹)、刺し口は小さいとされている。感染症法施行以前、唯一の全国サーベイランスであった衛生微生物技術協議会つつが虫病小委員会による調査では(IASR 20: 211-212, 1999参照)、1984〜1998年まで年間10〜20数名、累積213例の患者が、関東以西の10県(徳島、高知、兵庫、島根、鹿児島、宮崎、和歌山、三重、神奈川、千葉)で確認されていた。感染症法施行後の1999〜2005年は39(4〜12月)、38、40、36、53、67、62例(2006年1月26日現在報告数)と増加している(図1)。感染症法施行後、13府県(熊本、大分、佐賀、長崎、福岡、愛媛、広島、鳥取、大阪、福井、長野、静岡、埼玉)から新たに報告があり(表1)、患者発生の地域も拡大している(図2b)。しかし、つつが虫病が九州から本州まで広く発生しているのに対し、日本紅斑熱は関東以西にとどまっている。患者の年齢はつつが虫病と同様に全年齢層にわたり、70〜74歳がピークであった。性別は男157:女178と女性がやや多い。

月別患者発生は、3月〜12月に報告されている。報告数のピークは地域により異なっており(図3)、つつが虫病と同様に流行地域ごとの細かな調査解析が地域の感染予防啓発に重要である(本号5ページ7ページ8ページ9ページ参照)。

日本紅斑熱の実験室診断は、つつが虫病と同様の方法が用いられるが、血清診断用抗原や陽性コントロール血清の供給体制が十分でないため、限られた施設でしか実施されていない。

2001年7月に兵庫県、2004年8月に高知県、2005年9月に兵庫県で各1例の死亡が届出時点で報告されている。発症から短期間で死にいたる劇症型も報告されている(本号9ページ10ページ11ページ参照)。治療はつつが虫病と同様テトラサイクリン系抗菌薬が第一選択薬であるが、重症患者の場合、つつが虫病では無効なニューキノロン系薬併用が有効であるとの報告もある(本号11ページ参照)。

その他のリケッチア感染症:これまで国内で確認されていなかった新たな紅斑熱群リケッチア感染が示唆される症例が報告されている(本号14ページ参照)。一方、地中海紅斑熱や発疹熱などの海外感染例も報告されている(本号15ページ16ページ参照)。また、2001年にリケッチア科からアナプラズマ科に分類変更(参考)となったダニ媒介のヒト顆粒球アナプラズマ症の病原体Anaplasma phagocytophilum が国内でも確認されており、今後患者発生の可能性がある(本号18ページ参照)。

おわりに:今後の課題として、つつが虫病では標準3株以外の血清型の診断用抗原への対応、日本紅斑熱では、新規患者発生地域での抗体測定、PCR診断の普及が必要とされているが、現状ではリケッチア感染症の実験室診断が可能な施設はこれまで患者発生報告が多い地域に偏在しており、数も少ない。新規リケッチア症、輸入リケッチア症の実験室診断も可能な施設を確保するという新たな課題もあり、リケッチア感染症全体を視野に入れた全国的検査体制の強化が求められる。また、重症例を救命するためには、新たな早期診断法を開発する必要もある(本号12ページ参照)。

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