2005/06シーズン(2005年第36週/9月〜2006年第35週/8月)のインフルエンザ定点からの報告患者数は約96万人、それから推計される全国の患者数は約1,116万人であった。
2004/05シーズンに続いてA型のAH3亜型とAH1亜型、B型の混合流行であり、AH3亜型が中心であった。
患者発生状況:感染症発生動向調査では、全国約5,000のインフルエンザ定点医療機関(小児科3,000、内科2,000)から、臨床診断されたインフルエンザ患者数が週単位で報告されている。2005/06シーズン全体の累積患者数は定点当たり204.6で、最近10シーズンでは5番目と、中規模の流行であった。定点当たり週別患者数は、2005年第50週に全国レベルで1.0人を超え、年末〜年始に増加した。2006年第4週の32.4人をピークに減少し、第14週にいったん1.0以下になったが、第17週に再び1.0を超え、徐々に減少した(図1)。ピークの高さは最近10シーズンで7番目と低かった(http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/weeklygraph/01flu.html)。
定点当たり患者数は、西日本で早く増加し、東日本で遅れて増加した。沖縄県では2004/05シーズンと同様に第21〜29週に季節はずれの流行がみられた(本号12ページ)。北海道でも第20〜24週に、この時期にはかつてない流行がみられた(本号13ページ)。
5類全数届出感染症の「急性脳炎」として、51例のインフルエンザ脳症の報告があった(本号15ページ)。
インフルエンザによる関連死亡:「感染研」モデルによる推定(IASR 24: 288-289, 2003)では、国民の総死亡数からみた2005/06シーズンのインフルエンザによる超過死亡は2005年11月〜2006年1月に認められ、推計6,849人と、最近10シーズンで7番目であった。
ウイルス分離状況:全国の地方衛生研究所(地研)で分離された2005/06シーズンのインフルエンザウイルスはAH3亜型3,400、AH1亜型1,336、B型514であった(2006年10月27日現在報告数、表1)。
週別(図1)、都道府県別(図2)にみると、AH3亜型は2005年第36週に三重で分離され(IASR 26: 303-304, 2005)、第37週には長崎で小学校での集団発生が報告された(IASR 27: 11, 2006)。2005年第43週以降徐々に増加し、2006年第3週をピークに減少、第21週まで報告が続いた。AH1亜型は2005年第36週に東京で分離された後、第46週に愛知で地域流行が報告された(IASR 27: 12, 2006)のを皮切りに増加、2006年第10〜18週に減少したが、その後も第32週まで各地から少数ながら報告が続いた。一方、B型は2005年第50週に大阪と神奈川(IASR 27: 12-13, 2006)で分離された後、少数の報告が続き、2006年第11週を小さなピークとしていったん減少した。第15週から再び増加して、第21週をピークに地域流行となった沖縄、北海道など各地で(IASR 27: 150-151, 151, 152-153 2006)、第31週まで途切れることなく分離された。
インフルエンザウイルス分離例の年齢分布をみると、AH3亜型は1〜12歳の各年齢が同程度で、8、9、10歳を除いて2004/05シーズンより多かった。15歳以上では30代をピークに各年齢群とも2004/05シーズンよりも多かった。これに対し、AH1亜型は7歳をピークに9歳以下の小児が約9割を占め、B型は2004/05シーズンに少なかった12〜19歳が多かった(図3)。
2005/06シーズン分離ウイルスの抗原解析と2006/07シーズンワクチン株:AH1亜型は2005/06シーズンワクチン株であるA/New Caledonia/20/99 類似株が大半を占めた。AH3亜型は前シーズンに主流であったA/California/7/2004類似株(代表株は2005/06シーズンワクチン株のA/New York/55/2004)とは抗原性に違いがみられるA/Wisconsin/67/2005類似株が多く分離された。B型は前2シーズンに流行した山形系統株は分離されず、すべてがVictoria系統のB/Malaysia/2506/2004に類似していた(本号3ページ)。
2006/07シーズンのワクチン株は、AH3亜型はA/Wisconsin/67/2005類似株であるA/広島/52/2005に、B型はVictoria系統に属するB/Malaysia/2506/2004に変更され、AH1亜型はA/New Caledonia/20/99が引き続き選択された(IASR 27: 267-268, 2006)。
インフルエンザワクチン生産量と高齢者の接種率:2005/06シーズンは2,082万本が製造され、1,932万本が使用された。予防接種状況調査によると、2006/07シーズンには約2,150〜2,280万本の需要が見込まれている。予防接種法に基づく高齢者(主として65歳以上)に対する接種率は2005/06シーズンは52%であった(厚生労働省医薬食品局血液対策課、http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/06/s0614-5.html)。
新型インフルエンザ対策:WHOによる現在のパンデミックインフルエンザ警報はフェーズ3(パンデミックアラート期:新しい亜型ウイルスによるヒト感染が発生しているが、ヒト−ヒト感染は無いか、または極めて限定されている)となっている。ヒト−ヒト感染流行に備えて、日本では2006年6月12日施行の政令により、インフルエンザ(H5N1)は感染症法の指定感染症に指定され(本号17ページ)、新型インフルエンザ専門家会議のガイドラインが作成されている(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/)。
おわりに:インフルエンザウイルスサーベイランスでは、ワクチン株選定の基礎資料となるウイルス解析のため、分離株を確保することが重要である。しかし、医療機関で迅速診断キットに使用後の試料が地研に搬入されるケースが増え、ウイルス分離に支障を来している。キットの抽出試薬(検体処理液)に入れた検体からはウイルス分離は不可能となるため、ウイルス分離用には別途検体を採取し、地研に提供いただくよう、改めて医療関係者の理解と協力をお願いしたい。
一方、海外で高病原性鳥インフルエンザの発生が続いており(本号19ページ)、新型インフルエンザの出現が警戒されている状況下で(本号20ページ)、日本では従来非流行期と考えられていた夏季(図1)および、海外渡航後にインフルエンザを発症した者からの検出報告が増えている(表1)。通年的なインフルエンザサーベイランスが益々重要となっており、地研での検査体制のさらなる充実が必要である。
2006/07シーズン速報(http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/graph-kj.html):2006年11月7日現在、第36週に富山でタイから帰国した小児からB型が分離され、第37週に兵庫でフィリピンから帰国した成人からAH3亜型がPCRで検出されている。第38週には広島と滋賀でB型が分離され、広島では地域での小流行が報告されている(IASR 27:268-269, 2006)。第39週に大阪では香港旅行後発症した母親から感染した小児から(本号24ページ)、岡山では中国旅行後発症した父親から感染した小児などからAH1亜型が分離されている。
今シーズンは11月10日をキックオフデーとして、インフルエンザ総合対策の取り組みが開始されている(本号23ページ)。
*病原微生物検出情報(IASR)では、本号から、インフルエンザウイルスA、Bの区分は型、A/H1N1やA/H3N2などA型ウイルスの細区分は亜型と表記することにしました。 |