The Topic of This Month Vol.28 No.5(No.327)

腸管出血性大腸菌感染症 2007年4月現在

(Vol.28 p 131-132:2007年5月号)

腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症は、感染症法に基づき、3類感染症として診断した医師の全数届出が義務付けられている。また、2006年4月より、溶血性尿毒症症候群(HUS)発症例に限り、便からのVero毒素(VT)検出あるいは患者血清におけるO抗原凝集抗体または抗VT抗体検出によって診断した場合も届出が必要となっている(IASR 27: 149, 2006)。さらに、医師から食中毒として届出があった場合や、保健所長が食中毒と認めた場合には「食品衛生法」に基づき、各都道府県等において調査および国への報告が行われる。

一方、地方衛生研究所(地研)がEHECの検出、血清型別、毒素型別を行い、国立感染症研究所細菌第一部では分離菌株について詳細な分子疫学的解析を行ってパルスネットで情報提供している(本号4ページ)。

患者発生動向:2006年にはEHEC感染症患者および無症状病原体保有者(以下EHEC感染者)が3,922例報告され(表1)、2004年からの漸増傾向が続いている。例年同様夏季に流行のピークがみられた(図1)。人口10万対都道府県別発生数は宮崎(11.45)が最も多く、佐賀(10.62)、富山(10.35)および熊本(8.25)がそれに次ぎ、例年同様かなりの地域差がみられた(図2)。2002〜2005年に発生の多かった地域は2006年も多い傾向が見られた。また、国外感染例が2004年に大きく増加し(151例)、2005年は減少していたが(27例)、2006年には54例となった。2006年のEHEC感染者は0〜4歳がもっとも多く、5〜9歳がこれに次いだ。0〜14歳では男性が多く、15歳以上では女性が多かった。有症者の割合は、例年同様、男女とも若年層と高齢者で高く(19歳以下で75%、65歳以上で79%)、30代、40代では40%以下であった(図3)。

EHEC検出報告:2006年に地研から感染研に報告されたEHEC検出数は約2,200であった。EHEC感染者報告数(表1)と開きがあるが、これは、現在のシステムでは地研以外で検出された菌株についての報告が一部しか届いていないことによる。

O157:H7の割合は次第に減少し、2006年は52%であり、O26は24%、O111は3.3%であった(本号3ページおよびhttp://idsc.nih.go.jp/iasr/virus/graph/vtec0005.gif)。市販の抗血清で同定できない血清型でVTが検出される株もあり(IASR 25: 141-143, 2004)、EHECの同定にはまずVTを確認する必要がある。分離菌株が産生しているVT(または保有している毒素遺伝子)の型をみると、2006年も例年同様O157ではVT1&2が68%を占め(1997〜2005年は53〜68%)、O26ではVT1単独が96%で、O111はVT1&2が46%であった。

2006年のEHEC検出報告2,154例中O157が検出された1,466例の症状は、血便が34%、下痢55%、腹痛50%、発熱20%で、HUSが24例(VT1&2が16例、VT2が7例、VT1が1例)報告された。この他、O111の4例(VT1&2が3例、VT1が1例)、O26(VT1)の1例でもHUSが報告された。HUS患者からVT1単独陽性のEHECが検出されたとの報告は従来稀なので、今回のVT1単独例はVT2が検出できなかった可能性も考えられる。

2000〜2006年にHUSが報告された178例を年齢別にみると、1歳以下21例(EHEC検出1,135例中1.9%)、2〜5歳88例(同2,810例中 3.1%)、6〜15歳40例(同2,370例中1.7%)、16〜39歳9例(同3,434例中0.3%)、40歳以上20例(同2,681例中0.7%)で、低年齢で発症数が多く、発症率も高い。

集団発生:2006年に地研から感染研に報告されたEHEC感染症集団発生は28事例あり、うち17事例がO157によるものであった。菌陽性者10人以上の18事例では(表2)、O157とO26が約半数ずつで、推定伝播経路は食品媒介5事例、人→人感染9事例であった。国外感染例では2003年オーストラリア、2004年韓国への修学旅行の事例が報告されていたが、2006年には中国への修学旅行の事例があった(表2 No.15& 本号12ページ)。

なお、「食品衛生法」に基づく2006年のEHEC食中毒(速報値)は24事例、患者数179名であった(注:「感染症法」による報告数に比べ患者数が極端に少ないのは、感染原因が食品等の飲食によると判明するケースが少ないこと、患者1名の場合は食中毒としての届出が出されにくいことによる)。

EHECは赤痢菌と同様に微量の菌により感染が成立するため、人→人感染がおこりやすい。2006年も依然として保育所・幼稚園での集団発生が多く(表2)、保育所等では、普段からの園児・職員の手洗い、夏季の簡易プールなどの衛生管理に注意を払う必要がある(本号9ページ10ページ11ページ)。さらに患者が発生した場合には、家族への二次感染が多いので、家族に対して二次感染予防の指導を徹底する必要がある。

EHECは少数菌で汚染された食品が感染原因となりうる。生や加熱不十分な肉類の喫食が原因と推定される事例も多く、食品の十分な加熱調理など、食中毒予防の基本を守ることも重要である(本号5ページ7ページ8ページ)。

一方、2006年には牧場の牛や、学校で飼育していた羊などとの「ふれあい体験」で感染したと推定された事例も報告された(表2 No.3; IASR 28: 116-118, 2007、IASR 27: 265-266, 2006、IASR 28: 13-14, 2007、IASR 28: 46-47, 2007)。動物との接触後には十分な手洗いを行うなど、注意を払う必要がある(本号13ページ厚生労働省結核感染症課長通知参照)。

2007年速報:本年第1〜17週までのEHEC感染者届出数は236人である(表1)。今後、夏場にかけてEHEC感染症が増加することが予想されるので、一層の注意喚起が必要である。

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