The Topic of This Month Vol.25 No.11(No.297)

インフルエンザ 2003/04シーズン

(Vol.25 p278-279)

2003/04シーズンのインフルエンザ定点報告患者数は約79万人、それから推計される日本全国の患者数は約923万人で、最近10シーズンでは中規模の流行であった。分離されたウイルスの大部分はAH3型で、A/Fujian(福建)/411/2002類似株が9割を占め、わずかにみられたB型は山形系統に属するB/Shanghai(上海)/361/2002類似株が約8割であった。AH1型はほとんどみられなかった。

また、2004年に入り、アジアを中心に鳥の間でA/H5N1型が流行し、タイとベトナムではヒト感染例および死亡例が明らかとなった。人→人感染が明らかとなった事例はないが、新型インフルエンザ出現への警戒が一層高まっている(本号10ページ参照)。

患者発生状況:感染症発生動向調査では、全国約5,000のインフルエンザ定点医療機関から、臨床診断されたインフルエンザ患者数が週単位で報告されている。2003/04シーズンのピークの高さは、過去10シーズンで6番目とちょうど中間に位置し、シーズン全体の累積患者数は定点当り166.0で、2000/01(65.6)、1995/96(138.2)、2001/02シーズン(143.7)に次いで4番目に少なかった。

週別患者数は、2003年第52週に全国レベルで定点当たり1.0人を超えた後、急激に増加した。2004年第5週をピークに急速に減少し、第14週には定点当たり1.0以下になった(図1)。定点当たりの報告数を都道府県別にみると、最近の数シーズンは九州で早く増加がみられていたが(本月報Vol.23, No.12Vol.24, No.11参照)、2003/04シーズンは東北から増え始めた(図2)。

インフルエンザによる関連死亡(本号8ページ参照):国民の総死亡数でみた2003/04シーズンのインフルエンザによる超過死亡は、2004年2月にのみ認められ2,400人と推計され、最近10シーズンでは4番目に少なかった。また、13大都市でのインフルエンザ・肺炎死亡における超過死亡数が、死亡からほぼ2週間遅れでホームページに掲載された。

ウイルス分離状況:2003/04シーズンに、全国の地方衛生研究所から報告されたインフルエンザウイルス分離例はAH3型 4,740例、B型 290例で、AH1型は5例のみ(本月報Vol.25, No.2Vol.25, No.9参照)であった(2004年10月22日現在:表1)。

AH3型は2003年第37〜38週に長崎県で4例から分離され(本月報Vol.24, No.11参照)、第51週から増加して2004年第4週がピークとなり(図1)、全国で分離された(http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/graph/in17j.gif)。B型は2003年第36週に沖縄(本月報Vol.24, No.10参照)、第43週に愛知で分離されたあと、第47週以降39都道府県で分離され、2004年第23週まで少数の分離報告が続いた(http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/graph/in18j.gif)。名古屋では第17週に小学校の集団かぜからの分離が(本月報Vol.25, No.6参照)、沖縄では2〜4月にビクトリア系統のB型ウイルスの分離が(本月報Vol.25, No.9参照)報告された。

また、非流行期の第25週と第33〜36週にAH3型が(本号13ページ参照)、第32週にAH1型が(本月報Vol.25, No.9参照)、いずれもアジア、オセアニア渡航者から分離された。

インフルエンザウイルス分離例の年齢分布をみると、AH3型は、10〜14歳(27%)が最も多く、0〜4歳(26%)、5〜9歳(20%)がこれに次ぎ、10代と20代前半では2002/03シーズンよりも分離報告数が多かった。B型は0〜9歳からの分離が71%を占めた(図3)。

ウイルス抗原解析と2004/05シーズンワクチン株:2003/04シーズンに分離されたAH3型の90%以上はA/Panama/2007/99(同シーズンワクチン株)からHI価で4倍以上抗原変異したA/Fujian/411/2002 類似株であったが、どの参照抗血清に対しても反応性の低い変異株も約9%みられた。B型は2シーズンぶりで山形系統が主となり、大部分がB/Shanghai/361/2002 類似株であった(本号3ページ参照)。

国内外での流行状況にワクチン株としての条件を加味し、2004/05シーズンのワクチン株は、AH1型はA/New Caledonia/20/99、AH3型はA/Fujian/411/2002 様株であるA/Wyoming/3/2003、B型は山形系統に属するB/Shanghai/361/2002 が選択された(本月報Vol.25, No.9参照)。

インフルエンザワクチン生産量と高齢者の接種率:2004/05シーズン用としては約2,000万本が用意され、そのうち 100万本はワクチン不足時の融通用として確保されている(本号11ページ参照)。

予防接種法に基づく高齢者(主として65歳以上)に対する接種率は2001/02シーズン27%、2002/03シーズン35%、2003/04シーズン45%と向上している(厚生労働省医薬食品局血液対策課)。

鳥インフルエンザA/H5N1型の流行:2003年2月、香港でA/H5N1型ヒト感染死亡例が報告された(本月報Vol.24,No.3参照)。2004年にアジアを中心に発生した鳥の間でのA/H5N1型の流行に関連し、タイで17例(うち死亡12)、ベトナムで27例(うち死亡20)のヒト感染例がWHOに報告されている(2003年10月〜2004年10月25日までの累積)(本号16ページ参照)。

日本においても鳥の間でのA/H5N1型の流行が、山口県(養鶏場)(本号17ページ参照)、大分県(ペットのチャボ)、京都府(養鶏場)(本号18ページ参照)、兵庫県(養鶏場)で発生し、約27万5千羽の家禽が感染死または殺処分されたが、ヒトの感染例はこれまでにない。わが国では、汚染養鶏場におけるニワトリの殺処分、汚染養鶏場周辺への立ち入り制限、物の移動制限や消毒などの流行拡大防止・封じ込め対策が徹底されたことにより(本号20ページ参照)、2004年4月の終息宣言以降、新たな発生はない。

新型インフルエンザ対策:わが国では、2003年10月、新たに「新型インフルエンザ対策に関する検討小委員会」(座長:廣田良夫)が設置され、2004年8月に報告書がとりまとめられた(本号10ページ参照)。

2004/05シーズン速報:AH3型が第36週に愛知で1例(本号13ページ参照)、第39週、第41週、第43週に大阪で各1、4、1例(本号13ページ14ページ参照)分離されている。第42〜43週には東京でも2例から分離され、3例からはPCRで検出されている(2004年11月2日現在)(http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/graph-kj.html参照)。

また、第42週には「急性脳炎」として6歳男児のインフルエンザ脳症が東京から届出されている。

なお、感染症流行予測調査によるシーズン前の抗体保有状況は、データが整い次第感染症情報センターホームページで公表の予定である。

今冬も10月25日をキックオフデーとして、インフルエンザ総合対策の取り組みが開始されている(本号10ページ参照)。

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