The Topic of This Month Vol.28 No.9(No.331)

麻疹 2006〜2007年

(Vol.28 p 239-240:2007年9月号)

麻疹は高熱、発疹、カタル症状を主症状とする急性ウイルス感染症で、発症後数週間にわたって免疫抑制状態が持続する。感染力は強く、1人の患者が何人の感受性者に麻疹を発症させるかを示す基本再生産数(R0)は12〜18である。合併症には肺炎、中耳炎、クループ症候群等があり、頻度は低いが、脳炎、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)は極めて重篤な合併症である。通常、一度罹患すると終生免疫が得られるとされる。麻疹に対する不十分な免疫を保有する者に発症する修飾麻疹は、軽症であるが感染源となる。いったん発症すると特異的な治療法はなく、ワクチンによる予防が最も重要である。

原因である麻疹ウイルスはA〜HのCladeに分類され、23の遺伝子型が存在する。国内ではこれまで主にD3、D5が分離されていたが、2002〜2003年はH1が、2006〜2007年はD5が多く検出されている(本号6ページ&7ページhttp://idsc.nih.go.jp/iasr/measles.html)。

WHOによると、世界では毎年約2,000万人が麻疹を発症し、2005年の麻疹による死亡者数は約34.5万人と推計されている。南北アメリカ大陸・韓国では、それぞれ2000年、2006年に麻疹排除(elimination )が達成されており(本号24ページ)、日本を含めた西太平洋地域では2012年を排除の目標年としている(本号23ページ)。

感染症発生動向調査:感染症法に基づき全国約3,000カ所の小児科定点から報告された2006年の麻疹患者報告数は過去最低となった。全国約450カ所の基幹定点から報告された成人麻疹(2006年3月までは18歳以上、2006年4月以降は15歳以上)患者報告数も2005〜2006年に大きく減少した。しかし2007年は、第21週をピークとして(図1)第1〜31週までの累積で、小児科定点当たり報告数は0.77人(累積報告数2,307人;男1,283、女1,024)、基幹定点当たり報告数は1.69人(同772人;男414、女358)となり、特に成人麻疹患者数が増加している。

都道府県別の患者発生状況をみると(図2)、2007年第31週まででは関東地方を中心に全国的に患者報告数が増加し、定点当たり患者数が0.5人を超える都道府県は麻疹で16、成人麻疹で28と増加し、東日本に多い傾向が認められる。

2007年に小児科定点から報告された麻疹患者の年齢は(図3)、10〜14歳が激増している。年齢別割合で見ると(図4)、2007年は10歳以上が増加して44%を占め、0歳は例年同様であるのに対し、従来40〜50%を占めていた1〜4歳が22%に大きく減少している。一方、基幹定点からは比較的重症の成人麻疹患者が報告される。2007年の成人麻疹患者は、20〜24歳が最も多く(図3)、30歳未満が77%を占めている。

急性脳炎は5類感染症全数報告疾病であるが、2007年第13〜33週に8人の麻疹脳炎が報告されている(表1&本号18ページ)。

施設別集団発生状況:2007年には全国各地の学校で、麻疹による休校、学年閉鎖、学級閉鎖が相次いだ。2007年4月1日〜7月21日までに厚生労働省に報告された麻疹による休校数は全国で263あり、特に、高校、大学がそれぞれ73、83と多かった(http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/pdf/meas070727.pdf)。

感染症流行予測調査図5&本号3ページ):2006年度の1歳児麻疹PA抗体保有率(1:16以上)は68%であり、2001年度の調査(44%)に比較すると、24ポイント増加したものの、目標の95%以上には到達していなかった。2歳児では94%まで上昇し、8歳以下では高い抗体保有率を示したが、9歳以上20歳未満の年齢群に10%前後の抗体陰性者が存在し、2007年の流行の中心となった。また、わずかながら40歳以上に抗体陰性者が残存していた。

近年の国内麻疹流行の特徴:乳幼児を中心に、全国で約27.8万人の麻疹患者が発生したと推計される2001年の流行を経験して(IASR 25: 60-61, 2004)、全国各地で麻疹対策が強化された。特に、定期予防接種対象年齢(1歳以上7歳半未満)のワクチン接種率が上昇した。さらに、2006年4月1日から予防接種法に基づく定期予防接種として麻疹風疹混合ワクチンが導入され(IASR 27: 85-86, 2006)、同年6月2日から2回接種が開始されたが、2006年度の第2期(小学校就学前1年間)の接種率は地域による差が大きく、全国平均で約80%と低かった(本号21ページ)。

2006年春に、茨城県南部(本号13ページ)、千葉県(IASR 27: 226-227, 227-228, 228, 2006)を中心として、麻疹の地域流行が発生した。2006年11月には、東京都ならびに埼玉県の高校生が沖縄を修学旅行中に麻疹を発症し、4名が入院するという事例も発生した(IASR 28: 145-147, 2007)。2006年末から埼玉県、東京都の患者報告数が増加傾向を示し、その後、流行は千葉県、神奈川県に広がるとともに、2007年5月の連休中に全国に拡大した。9月現在も流行は完全に抑制されていない。また、麻疹排除を達成した国への海外修学旅行中に麻疹を発症した日本の高校生、日本への旅行後に麻疹を発症した外国人の症例が報告され、国際的な問題としても取り上げられている。

2007年の流行で顕著に増加した10〜20代の患者は、ワクチン未接種者と1回既接種者が混在している(本号7ページ9ページ11ページ15ページ)。成人麻疹の増加に伴い、母子感染による新生児麻疹(IASR 28: 195-196196, 2007)や、60代の再罹患と考えられる例も報告されている(本号20ページ)。

今後のわが国の麻疹対策:2007年の流行の中心となった世代に対する免疫強化を目的に、2008年度から予防接種法に基づく5年間の経過措置として、中学1年ならびに高校3年相当世代への2回目の麻疹風疹混合ワクチンの接種が予定されている(本号22ページ)。今後は、文部科学省とも連携を密にし、学校での麻疹対策(本号9-11ページ11-12ページ12ページ)、および地域ごとの対策(本号7ページ13-14ページ14-15ページ15-16ページ16-17ページ)が重要である。

2012年の麻疹排除を達成するには、迅速な予防接種状況評価体制を確立してワクチン2回接種率95%以上を確保し維持すること、現行の定点サーベイランスを予防接種歴を含む麻疹全数報告へ変更して初発患者発生時点で迅速に対応すること(本号17ページ)、など積極的な麻疹対策が重要である。また患者数がさらに減少し排除に近づいたならば、可能な限り全例の実験室診断が求められる(本号7ページ&IASR 28: 221-223, 2007)。

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